LECTURE & TALK
私のきのこ学LECTURE & TALK
私のきのこ学質問タイム
会場の参加者から8つの質問がありました。
どんな話題が展開したのか、ご覧ください。
Q1
きのこが生えていた場所を掘っていく時、何か、印象的なにおいはありますか?
おそらく排泄物の分解が進むほど、あまりにおわなくなるとは思いますが。
相良
新しい排泄物はやっぱり臭いです。モグラは基本的に肉食ですから、においは良いものではありません。ナガエノスギタケが生える頃になると、排泄物はもう古いので、そのような臭いはありません。巣が小さいですし、獣臭もほとんどありません。
Q2
菌糸が便所跡で成長してきのこが生えてくるまでに、どれくらいの時間がかかるのでしょうか?
相良
半年以上でしょうね。実験できないので、はっきりしたことは言えませんが、最終的にきのこを生やすほどに菌糸を茂らすには、ある程度の量まで糞が溜まらないとできません。それには相当な時間を要すると思います。
Q3
森の中で、菌根共生が起きやすく、きのこが生えやすい環境として、日当たりや水はけなど、何か特徴的な要素はありますでしょうか?
相良
原理的な話になってしまいますが、樹木は光合成をする必要があるので日当たりは必要ですね。それから、やはり水はけが良くないといけませんね。酸素が土壌中に供給されないと菌糸も木の根も生育できませんから。
Q4
私は大学でタヌキの溜め糞の研究をしています。きのこが好きで、相良先生の著書や論文も読ませていただいていて、タヌキが定期的に排泄する場所で、きのこが生えないかと見ていますが見つかりません。毎日排泄されていますが、そのような場所では生えにくいのでしょうか?
相良
私もタヌキの糞場には、随分通いました。排泄している最中は、きのこは生えません。きのこが生えるのはその糞が朽ち果てた後のことですね。糞に含まれる窒素が分解されてアンモニア化した後の出来事になります。アンモニア化した後の初期にはチャワンタケ類やヒトヨタケ類が生えるかもしれません。時間が経てば、アシナガヌメリや他のきのこも生えてきます。是非、きのこを見てください。
Q5
尿素を撒かれた場面で、地面が黒くなるのはどうしてですか。例えば、山の中で動物が排泄したようなところも後から黒くなるものですか。
相良
アルカリ性のものであれば、尿素でなくても、KOH(水酸化カリウム)などでも黒くなります。動物の尿の落ちたところや死体が朽ち果てた跡はアンモニアによって黒くなります。
Q6
生息地浄化共生について伺います。もし、きのこがないと巣にアンモニアが溜まってしまってモグラは住めなくなるのでしょうか。
相良
良いご質問です。自然界にはいろんな生物がいて、代わりに同じようなはたらきをするものもいっぱいいます。例えば、畑の付近には樹木もきのこもありませんが、そこでも排泄物の後始末は行われているはずです。さまざまな生物が関わり合う開放された大地であれば、代わりの生物が後始末してくれます。しかし、同じ所に長期定住できるかというと、それは、やはり森の中でこそ可能なのだろうと私は考えています。ともかく、農耕地周辺で長期定住が観察された例はなく、長期定住を観察しようとした人もいません。なお、ナガエノスギタケの増殖原因がアンモニアだとは判っていません。
Q7
山の中などで、ナガエノスギタケを見分ける方法や何か特徴はありませんか。
相良
ナガエノスギタケはとても目立つ、立派なきのこです。あるイギリス人は、“ noble fungus”と言いました。「高貴なるきのこ」だと。目立ちすぎて私が困るのは、先に誰かに採られちゃう。においも特徴的で、昔のフエキ糊のような臭いです。ナガエノスギタケやアシナガヌメリが見つかったら、その発生位置をピンポイントで標識しておいていただけると、科学になり得ます。
Q8
アカマツ林に尿素を撒いて、まず腐生菌のチャワンタケやヒトヨタケの仲間が生えて、その後、ワカフサタケの仲間が生えたということですが、時間差があるのはなぜでしょう。
相良
菌類遷移の実相はほとんど判っていませんが、後から生えるきのこで菌根共生するものには、木の根の回復が必要です。尿素を撒いた時、直後には樹木の細根は死滅し、それが数カ月以上経つと回復してきます。その時、菌糸のほうも一緒に増殖すると考えればよいかと思います。さらに、尿素施与によって増殖したきのこの死骸はどうなるのだろうという問題もあります。アンモニア菌の中には、以前に育ったきのこの死骸を食べて育つきのこもあるかもしれません。
私のきのこ学
「後始末」を軸としてみる森の姿大分県在住