1. トップ
  2. 季刊「生命誌」
  3. 季刊「生命誌」119号
  4. RESEARCH アカメガシワの柔軟な防御戦略 アリを利用する植物の護身術

RESEARCH

アリを利用する植物の護身術
-アカメガシワの柔軟な防御戦略-

山尾 僚京都大学生態学研究センター

本州以南では身近な樹木であるアカメガシワは、アリを使って天敵を排除する戦略をもつ。両者の関係を探ると、機敏に周囲の状況をとらえ、賢くアリと協力するアカメガシワの姿が見えてきた。ここから、植物が他の生物を利用して身を守ることの意味を考えてみたい。

1. アリに守ってもらう植物

地中に根を張って固着生活をする植物にとって、昆虫や哺乳類などの動物に食われることは最大の脅威である。多くの植物は、動かずして動物の食害に対抗する手段を進化させてきた。ほとんどの陸上植物が、天敵の嫌がる味や匂いのする化学物質を体内に蓄えたり、天敵の摂食を物理的に阻むトゲや毛、硬い外皮をもつ。ここからは、植物が歴史的に数多くの食害に遭ってきたことが想像できるだろう。

他の生物を利用して間接的に身を守る植物も存在する。そのパートナーとしてよく選ばれているのが、地球上のほとんどの地域に生息するアリである。アリと共生する植物の多くは、花以外の場所に蜜腺(花外蜜腺)をもつ。甘い蜜でアリを誘引し、天敵昆虫のパトロールをしてもらうのだ。中には、植物体の一部を変形させてアリを住まわせるものまでいる。これらの植物を巡回するアリが、植物の天敵となる昆虫を見つけた場合は捕食するか、捕食対象とならない昆虫であっても、自身の縄張りへの侵入者として排除してくれるのだ。

2. アカメガシワの護身術

アカメガシワ(Mallotus japonicus)は、日本で見られる数少ないアリと共生する植物である。本州以南に生息し、都市部でも公園や道路脇の草むらに、数十センチ〜数メートルの若木がよく見られる。この樹木は葉に蜜腺をもち、アリを誘引する。また、葉脈や葉の柄から分泌する「食物体」と呼ばれる脂質の塊もアリの餌になる。身近なアカメガシワを見れば、多くの場合アリを見つけることができるだろう(図1)。

(図1) アリを誘引するアカメガシワの工夫

学生時代に両者の共生関係に興味をもった私は、岡山理科大学の構内のアカメガシワの若木に訪れるアリを調査し始めた。150本以上を調べた結果、8割を超える若木でアリが見られ、この地域に生息するアリのうち10種類が訪れていることがわかった(図2)。

(図2) アカメガシワを訪れたアリの種類と割合

高さ1m以下の若木156本中の調査結果。一つの木に見られたアリは一種類ずつだった。
データ:Yamawo et al., Journal of Ecology (2012)

アカメガシワの葉の上に、植物の天敵であるイラガやシャクガの幼虫を置いてみると、アリが群がってきて速やかに排除された(図3)。ただし、アリの攻撃性は種によって差があり、全種のアリが植物にとって有効な守護者ではないことや、有効なアリが常にどの木にもいるとは限らないことがわかった。アリは条件が合えば天敵を排除してくれるが、その守りは必ずしも完璧ではないのだ。

(図3) 植物の天敵を排除するアリ

オオズアリに攻撃されるヒロヘリアオイラガ幼虫(左)、テラニシシリアゲアリに捕食されるエダシャク幼虫(右)

3. 葉ごとに異なる守り方

隙があるように見えるアリの防御は、どの程度効果があるのだろう? いくつかの若木に、アリが接触できなくなる処理を行ってみたところ、1ヶ月後には木の一部の葉で食害が増えた。食害が増えたのは、新しい葉や老齢の葉ではなく、適度に成熟した葉(中齢葉)だった(図4)。同じ個体の中でも、中齢葉が最も手厚くアリに守られているということであり、実際に木の中でアリが多く見られたのも中齢葉だった。

(図4) アリによる食害防止の効果

アリによる食害防止の効果は、中齢の葉(上から3番目の葉)を中心に高くなった。
データ:Yamawo et al., Journal of Ecology (2012)

老いた葉はともかく、個体にとって最も大事な新葉の守りが薄いことは意外だったが、この植物は新葉を他の手段で守っているらしい。アカメガシワはその名の通り新芽(新葉)が赤いことが特徴だが(図5左)、これは芽が「トライコーム」という細毛で覆われているためである。この毛は物理的に昆虫の食害を妨げる効果がある。またこの植物の葉には、天敵が忌避するポリフェノールなどの化学物質を分泌する腺点があり(図5右)、腺点の数も新葉で特に多いようだった。

(図5) アカメガシワの新葉(左)と、葉の表面のトライコーム・腺点

(図6) アカメガシワの葉齢と、化学的防御・物理的防御・生物的防御の強さの関係

新葉(葉齢1〜2週)では腺点数・トライコーム数が高く、中齢葉(葉齢3〜5週)では蜜腺・食物体数と訪れるアリの数が高くなった。
データ:Yamawo et al., Journal of Ecology (2012)

トライコーム、腺点、葉の蜜腺と食物体の数を全ての葉で調べ上げたところ、新葉と中齢葉では重点的な防御方法が見事に入れ替わることがわかった(図6)。まだ小さく柔らかい新葉は、アリに頼らない自身の防御手段(化学物質とトライコーム)で守り、葉が成長すると蜜腺の数や食物体を増やしていく。豊富な光合成産物を蜜に転用し、アリに守ってもらう戦略にシフトするのだ(図7)。

(図7) アカメガシワの防御戦略のシフト

4. 柔軟な防御戦略

この経験から私は、アカメガシワは様々な状況に応じて、化学的・物理的・生物的な防御を使い分けることができるのではないかと考えた。アカメガシワは河川敷や山の中など多様な環境に生息しており、生育環境に応じた防御戦略の違いが見られるかもしれない。フィールド調査や生育実験を重ねた結果、林の縁や林内の、土壌の養水分が豊富でやや暗い環境の木は、アリを使った防御に重点を置くことを発見した。反対に明るい開放地の個体は、アリ防御ではなく化学的・物理的防御に重点を置くようだ(図8)。

(図8) 環境に応じて変わる守り方

また開放地の木のほうが食害が少なく、実際は生物的防御よりも化学的・物理的防御の方が、食害を防ぐ効果は大きいらしいこともわかった。ではアカメガシワが、環境に応じてわざわざ防衛手段を切り替え、アリと共生するメリットは何なのだろう? 一つ考えられるのは、生物的防御が低コストな防御方法であるということだ。

化学的・物理的な防御には、複雑な化学構造をもつポリフェノールを合成したり、葉全体でトライコーム生産遺伝子を発現させる必要がある。一方、アリを呼ぶ甘い蜜の主成分は、光合成産物そのものに近い糖であるため、前者よりもコストをかけずに作れるのではないだろうか。もちろん植物にとっての防御コストを調べることは難しい。ただ私たちの実験では、アリと共生した個体は、アリ不在の個体に比べ、1年後の重量が10〜20%大きくなることがわかっている。

アカメガシワは暗い場所では生きられないため、他の木より早く成長して光を獲得することが、生存のために何より重要だ。特に光を巡る競争が激しい状況では、アリと協力して防御のコストを減らし、少しでも成長に資源を回せることは十分なメリットではないだろうか。アリと共生する植物の多くが、アカメガシワと同様に明るい場所を好む「パイオニア種(注)」であることも、この考えを支持している。アカメガシワの生き様を通して、植物の柔軟さと強かさを垣間見ることができた。
 

(註) パイオニア種

明るい環境を好み、主に開放地で発芽・成長する樹木。他の植物より早く成長して光を獲得するが、遅れて他の樹木が繁り始めると数を減らすことから、森林形成の初期に見られる種という意味でこのように呼ばれる。

5. 迅速な反応でアリを動員

蜜量の調節は、物理的・化学的防御の調節に比べ迅速に行えるというメリットもある。状況に応じて蜜の量をしぼれば、さらなる資源の節約にもつながるだろう。実際にアカメガシワは状況の変化に速やかに反応して、アリを動員することもわかった。

天敵の食害を模して、無傷の若木の葉の一部をハサミで切り取ってみると、24時間以内に、個体全体の葉で分泌される蜜の量が増え始めた。蜜量は3日後には5倍になり、訪れるアリの数も10倍にまで増加したのだ。

食害後に新しくつくられた葉には、さらなる変化が見られた。蜜腺の数自体が増え、葉の先端まで蜜腺が並ぶ形になったのである。結果、食害前の葉では、葉の基部までしか巡回しなかったアリが、葉全体を歩き回るようになったのだ。植物が食害を受け、隈なく天敵を探索するようアリに促しているかのようだ。

また奄美大島の地域個体は驚くべき反応を示した。アリに触れたことのない若木にアリを昇らせてみると、数日後には蜜の分泌量が増え始めたのである。何らかの形で木がアリの来訪を検知したようだ。アリの接触や歩行による振動に反応したのか、アリの足に付着している特有の化学物質に反応したのかもしれないが、そのしくみは全くわからない。海外の他の植物の研究では、植物がアリの種類まで識別しており、有効なアリが来た場合のみ反応を示すという例もある。

植物は、私たちが思うよりはるかに機敏に周囲の状況を捉え、他の生物の行動を巧妙に操作しているのかもしれない。

(図9)  迅速な反応でアリを動かすアカメガシワ

6. アリとの関係の進化

アカメガシワは日本を含む東アジアの温暖な地域に分布する。そのパートナーであるアリの種類や生活史は、地域によって大きく異なるはずである。私は九州や沖縄の島々あわせて7箇所を回ってアカメガシワを訪れているアリの種類を調査し、種子を集めて同じ環境で育てる実験を行った。

その結果意外なことに、アリの種の多様性が低い地域のアカメガシワほど、アリによる防御に重点を置くよう進化していることがわかった(図10)。恐らくこれは、その地域の全種のアリが植物の有効な守護者になってくれないことと関係する。アリの種類が多様になるほど、植物にとって協力的でないアリが蜜を持ち去ってしまう確率も高くなり、かけたコストが割に合わなくなるのだろう。結果、そのような地域では他の防御手段に重点を置く個体が選択されてきたのではないか。今後は、このようなアリと植物の関係の地域性が、どのように進化してきたのかを探りたいと考えている。

アカメガシワとアリの共生関係は、動物と植物の違いを明確に感じることができる現象の一つだと思う。ぜひ身近な植物に目を向け、その変化を感じ取ってみてもらいたい。想像もしなかった魅力的な世界に引き込まれることをお約束する。

(図10) アリの種多様性と葉の蜜腺数の関係

データ:Yamawo et al., Functional Ecology (2021)


本記事に関連する文献
●『植物たちの護身術―被食防御の生態学―』 種生物学会 編(坂田ゆず・角田智詞 責任編集)文一総合出版(2024) 生物的防御を始めとする植物の様々な被食防御について、最新の研究に基づいて解説している。
●Yamawo A, Suzuki N, Tagawa J, Hada Y. Leaf ageing promotes the shift in defence tactics in Mallotus japonicus from direct to indirect defence. Journal of Ecology, 100: 802-809 (2012)
●Yamawo A, Tagawa J, Hada Y, Suzuki N. Different combinations of multiple defence traits in an extrafloral nectary-bearing plant growing under various habitat conditions. Journal of Ecology, 102: 238-247 (2014)
●Yamawo A, Tokuda M, Katayama N, Yahara T, Tagawa J. Ant-attendance in extrafloral nectar-bearing plants promotes growth and decreases the expression of traits related to direct defenses. Evolutionary Biology, 42: 191-198 (2015)
●Yamawo A, Suzuki N. Induction and relaxation of extrafloral nectaries in response to simulated herbivory in young Mallotus japonicus plants. Journal of Plant Research, 131: 255-260 (2018)
●Yamawo A, Suzuki N, Tagawa J. Species diversity and biological trait function: Effectiveness of ant-plant mutualism decreases as ant species diversity increases. Functional Ecology, 35: 2012-2025 (2021)

山尾 僚(やまお・あきら)

2012年鹿児島大学大学院連合農学研究科博士課程修了。博士(農学)。2013年日本学術振興会特別研究員、2015年弘前大学農学生命科学部助教・准教授(2021年)を経て、2023年より京都大学生態学研究センター教授。

季刊「生命誌」をもっとみる

オンライン開催 催しのご案内

レクチャー

12/14(土)14:00-15:30

季節に応じて植物が花を咲かせるしくみ