Special Story
細胞を作る
教科書などに出てくる細胞の絵を見ると、細胞膜で包まれた袋の中にやや大きな核が1つと、エネルギー供給をつかさどるミトコンドリアなどの細胞内小器官が2~3個ずつ描かれたようなものがほとんどである。
そういうものばかりを見ているから、細胞というのは基本的には隙間だらけの袋のようなものだと、一般 の人たちはもちろん生物学者まで思ってしまっている。
しかし、実際の細胞の中はそんなイメージからほど遠い。まず細胞内小器官の数は非常に多く、ミトコンドリアなら、筋肉や肝臓などの動物の細胞で数千個にもなる。ゴルジ体は、たんぱく質の分泌に重要な役割を果 たすが、大きく扁平な袋状の膜構造が、多いときには十数枚も核の周りに層状に重なっている。こういった構造に加えて、その間には微小管をはじめとする細胞骨格が網の目のように張り巡らされている。
細胞内の、たんぱく質などの分子の濃度はきわめて高く、水溶液で言えばもうほとんど飽和状態に近いとも言える。また、本来水に溶けるはずの可溶性たんぱく質まで、何らかの構造をとっているという説もある。
さらに驚くべきことに、この中をたんぱく質の分泌や輸送に関わる小さな袋状の小胞などが、猛烈なスピードで行き来している。細胞内小器官自身もまた、形を変えたり、新しくできたり消失したりしている。
写真は、細胞を急速に凍結させた状態を観察した電子顕微鏡写真だが、これを見ると、よくこんなに構造のこみあったところで正確に物事が進んでいるものだと改めて感動させられる。細胞の中は、まるでジャングルのような、たいへんな世界なのだ。
(1)脳下垂体前葉のホルモン分泌細胞。ホルモンは、左側の層状のゴルジ体で作られ、右側の小胞の中に入り、細胞の外に運ばれていく。それらの構造体の間には、ぎっしりと細胞骨格がつまっている。
(2)神経の刺激を伝える軸索の中の構造。中間径繊維・微小管のネットワークがびっしりと張り巡らされており、その間をさまざまな物質が移動する。
(1)(2)いずれも、細胞を凍結して割り、表面 に金属を蒸着させて電子顕微鏡で見ている。
(写真=月田承一郎)
(つきた・しょういちろう/京都大学大学院医学研究科・分子細胞情報学教)
※所属などはすべて季刊「生命誌」掲載当時の情報です。