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Special Story

細胞を作る

できてはこわれる細胞の骨組み:宝谷紘一

細胞内の骨格としてはたらく微小管は、チューブリンというたんぱく質がらせん状にあつまった(重合した)もので、必要に応じて、ダイナミックに形成、消滅するという特徴をもっている。

たとえば、細胞分裂の際、染色体を2つの細胞に分配するためにできる紡垂体という構造は、何千本もの微小管がラグビーボール状に集まってできたもので("現実の細胞の中の微小管"参照)染色体はその微小管の繊維の助けを借りて、2つの細胞に分配される。チューブリンは、分裂期以外には、細胞骨格の中に組み込まれており、分裂期に入ると、その細胞骨格微小管は一気に解体されてばらばらになる。そのチューブリンが重合して紡垂体の構造を作り、染色体が分かれてしまうと、また瞬時にしてばらばらになる。つまりチューブリンは、リサイクル可能で、しかも多くの機能をもつとても便利な生体構造材なのだ。

微小管の見事なふるまいには、多くの研究者が魅了され、この分野は、ここ20~30年間にわたって実験生物学においてもっともホットなものの一つである。

微小管の形成、消滅はいったいどのようにコントロールされているのだろうか。かつては、素材であるチューブリンの濃度に応じて、重合したり解体したりして、微小管が伸びたり縮んだりするという単純な説が有力だった。しかし、それでは細胞内のチューブリンそのものを分解して濃度を変化させないと、臨機応変に微小管を作ったり壊したりすることはできない。これではリサイクルにはならない。

じつは微小管は、チューブリンの2つのエネルギー状態の変化を利用した動的不安定性(ダイナミック・インスタビリティー)と呼ばれる巧妙な仕組みをもっているのだ。

チューブリンには、エネルギーの高い状態と低い状態の2つがある。高エネルギー状態のチューブリンが端から重合して微小管は成長していくのだが、取り込まれてしばらくすると、高エネルギーのチューブリンは不安定な(隣の分子との結合力が弱い)低エネルギー状態に変化していく。しかし、高エネルギーのチューブリンが先端にある間は、中にある低エネルギーのチューブリンも、微小管の成分として立派に機能する。成長が止まると高いエネルギーのふたがなくなり、端のチューブリンから脱重合して微小管はすばやく解体していく("イラスト"参照)。

このシステムなら、溶液のチューブリン濃度によらず、伸びている微小管と崩壊している微小管が同居することも可能になる。小さな空間の中で、必要に応じて微小管を伸ばしたり縮めたりできるのは、細胞にとって非常に都合がよい。私たちは10年前に、一本一本の微小管の伸び縮みの様子を暗視野光学顕微鏡で撮影することに成功し、それが動的不安定性のモデルの直接の証明になった。微小管の成長・崩壊を、安定に制御するためのたんぱく質の存在も知られるようになっており、その制御がどのように行われているかを研究することが、私たちの目下の課題である。

 

(A)原生生物の一種、太陽虫(E.nucleofilum) 。 放射状の仮足の中に、数百本の微小管が二重の渦巻き状に並んでいる。微小館が伸び縮すると、それにつれて仮足の長さが変わる。

(B)太陽虫の1本の仮足の断面を電子顕微鏡で見る。小さな丸の一つが、微小管1本の断面。(写真=広島大学・重中義信)

現実の細胞の中の微小管

細胞分裂のときに、染色体を2つの細胞に分ける紡錘体は、微小管が籠状に集まってできる。写 真はいずれも、ショウジョウバエの初期胚の中で染色体が分配されるところ。顕微鏡写 真にコンピュータで着色している。
(1):緑=微小管(未重合のチューブリンも含む)、青=DNA、赤=核膜。左から間期、分裂前中期、分裂中期の順。
(2):紫=微小管、緑=DNA。
(『Seminars in Cell Biology』Vol.2,P.159,1991)
(写真=郵政省通信総合研究所・平岡泰)

微小管はすばやく解体していく

宝谷紘一(ほうたに・ひろかず)

1940年神戸市生まれ。神戸大学理学部物理学科卒業後、名古屋大学大学院 で学ぶ。京都大学理学部生物物理学教室助手、助教授を経て、 89年帝京大学理工学部教授。この間ニューヨーク州立大学客員研究員、 エール大学客員教授を歴任。91年から現職。

※所属などはすべて季刊「生命誌」掲載当時の情報です。

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