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表現スタッフ日記

展示季刊「生命誌」を企画・制作する「表現を通して生きものを考えるセクター」のスタッフが、日頃に思うことや展示のメイキング裏話を紹介します。月二回、スタッフが交替で更新しています。

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【表現の陸から、再び研究の海へ】

2016年4月1日

藤井 文彦

久しぶりに着任当初の自身の日記を開いてみると、「研究の海から、表現の陸へ」と題して、かつての専門とは異なる分野で挑戦する意気込みを語っています。それから早いもので4年。再び、研究の海に還ることになりました。

「生命誌」という言葉に初めて出会ったのは、『自己創出する生命 –普遍と個の物語−』(中村桂子著)を手にとった時です。今でも鮮明に覚えていることは、(中村館長に怒られそうですが)内容ではなく、少し読み進むごとにページから目を離し考え込んでいた体験です。それほど深さと広がりのある本だったということでしょう。

それから随分と後に、再び生命誌に出会いました。2011年に東日本大震災と義母の死を目の当たりにし、職業だけではなく人生をまるごと考えたことがきっかけでした。永いあいだ書道・武道を続けていたので、それらアートとマーシャルアーツの感覚を、生業にも生かせないかと考えたのです。そんな時、たまたま「表現を通して生きものを考えるセクター」という風変わりなセクター名を目にし、これまで受けた教育と先の2つを生かせそうと感じ、思い切って表現の世界に上陸しました。

それから4年間、紙やWebや展示空間上で生きものにまつわることを表現しながら、人が社会の中で生きていく楽しさと難しさも考え続けました。その途中で新しい家族ができ、当たり前に居た家族を失い、それら個人的な体験が刻々と表現上に影響して行く様を感じました。そんな中で担当したのが2つの展示です。

1つ目は、2015年のクリスマスに完成した「生きているを見つめ、生きるを考えるゲノム展」。完成後には、京大ウイルス研の研究者を皮切りに、博物館で展示制作に携わっている方々も含めて合計10グループほどの皆さんにお披露目しました。テーマと内容もさることながら、空間デザインも含めた製作上の工夫を皆さんに面白がって頂き、モノを作ってそこから生まれるコミュニケーションの大切さを感じました。とはいえ、面と向かっては100人ほどの人にしか実物を前に語れていません。そこで季刊「生命誌」の付録としてリメイクし、読者1万人にもお届けしています。

2つ目は、「生命誌マンダラ」。実は、図案を作っていた当初は織物にする予定はありませんでしたが、外部の協力者とお話しているうちに、実現できそうな技術が見つかり見事な織物が出来上がりました。この展示も、基本的にはご来館いただかないと見ることはかないませんが、実はもう一点同じものを製作会社からお贈りいただきました。双子の生命誌マンダラの片方は、映画「水と風と生きものと –中村桂子・生命誌を紡ぐ−」そして中村館長と一緒に、忙しく全国を巡業しています。

ところで、古代インドに起源をもつ曼荼羅は、仏教(密教)の教えを表現したものですが、同じく仏教(禅)の教えを表した1組の図をご紹介して、私の最後の日記を終えたいと思います。ある人が紹介していて、私も表現の1つの極みだと感じた「十牛図」です(『十牛図 –自己の現象学』上田閑照などを参照)。悟りを牛に例えて人生の旅が始まるのですが、10ある図のうち6つ目の図で牛を手なずけて家に帰り着きます。そこから牛を忘れ、さらには自分を忘れ、自然に還るという境地が続きます。そして最後は、老人と童子が楽しそうに対話(dialogue)している図で終わるのです。

[ 藤井 文彦 ]

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