展示や季刊「生命誌」を企画・制作する「表現を通して生きものを考えるセクター」のスタッフが、日頃に思うことや展示のメイキング裏話を紹介します。月二回、スタッフが交替で更新しています。
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生命の誕生
2013年11月1日
1ヶ月ほど前に『生命起源論の科学哲学』という本を買いました。副題が「創発か、還元的説明か」とあったので読まぬわけにはいくまいと思ったのです。ですが、家に帰ると眠くて眠くてそれどころではありません。難しい本ということもありますが、今月に息子が誕生したばかりで、少々睡眠不足がたたっているからです。昨晩ふたたび本を開いてみたところ、わずか26ページ読み進んだところの「生命を定義するという実践は、生命の起源という問題そのものの枠外では非常に考えにくいものであり、またその逆も言える」という1961年のオパーリンの言葉で力尽きていました。もう2014年は目の前に来ているというのにです。
さて、生命の起源については眠い目をこすりながら悶々と考えるとして、息子が母の胎内で発生過程を経ているときのことを思い返してみました。そのとき僕は、季刊『生命誌』サイエンティスト・ライブラリーのコーナーで、発生生物学がご専門の二人の先生の記事を感慨深く担当していたのです。お一人は細胞分化の誘導物質としてアクチビンを同定された浅島誠先生、もうひと方は分化に関わる転写制御に注目して発生の謎に挑み続けていらっしゃる近藤寿人先生。お二人に話をうかがって興味をもったことは、浅島先生はシュペーマン博士が発見したオーガナイザー(形成体)を出発点として研究を始められ、片や近藤先生はオーガナイザーという概念に少し疑問を持ちながら研究を進められた点です。正確な立ち位置は分かりませんが、ご自身が「これは!」と思ったことに対して、信念を持って挑まれた様子が分かります。侃(かん)と名付けた息子にも、そうあって欲しいと願います。ところで、今期に担当した季刊『生命誌』リサーチのコーナーには、川合良和さんによる原始生命体の細胞分裂についての研究をご紹介します。生命の誕生つながりで、どうぞお楽しみください。