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研究館より

中村桂子のちょっと一言

2024.07.17

チャットGPTのエネルギーはどこから

7月初旬だというのに40度近い気温になった地域があり、それが日々増えていきます。熱中症で亡くなる方の数も増え心配です。「温暖化」という言葉にはもう実感がなく「沸騰化」です。自然は変化するものであり、地球の歴史の中では気温も大きく変わったことが知られています。けれども、去年の今頃を思い出し、一年での大きな変化を見るとこれはどう考えても人間活動の影響です。

エネルギー利用の見直しが不可欠ですが、社会は呑気なものです。東京都の広報には、脱炭素化(生命誌としてはナンセンスな言葉)と大きく書かれ、「水素活用が切り札!」とあります。「水には水素がたくさんあるので、電気分解で取り出せば、クリーンなエネルギーがいくらでも得られる」というのです。「電気分解に必要な電気はどこから来るのですか。そこでの設備その他にかかるエネルギーはどこから来るのですか」という問いへの答えがない限り、水素社会は成り立ちません。「豊富な水の中にあるクリーンな水素エネルギー」という言葉はごまかしです。落ち着いて実態を考えると、太陽エネルギーはそのまま利用、風力、水力、生物による炭素循環を通して利用という形で活かせます。地球が持つエネルギーも活用したいものですが、噴火や地震など災害につながっているのが実情です。科学は、原子核の分裂、融合で大きなエネルギーを得られることを見出しましたが、ここに問題ありなのはどなたもお分かりの通りです。

炭素循環を中心にした、節度あるエネルギー利用にしか答えはないことが見えてきます。現代文明をエネルギーの面から見直す時が来ているのです。そう考えると、例えば、AIについてエネルギー面からの検討がまったくなされていないのが気になります。インターネットはメガワット(106)のレベルですが、AIになるとギガワット(109)になり1000倍です。DXの推進者(国、企業、大学、研究機関など)は、データセンター新設とそのための大規模電源投資が必要と言っています。その答えは今のところ、大型原子力発電所しかありません。AIだチャットGPTだとはしゃいでいてよいのでしょうか。そこにあるのは大量データの集積から得られる情報と速度であり(しかなく)、人間らしい賢さとは違います。

原子力発電所などなくとも、美味しい果物を食べればせっせとはたらく人間の脳を使って、まずAIやチャットGPTの上手な使い方(時には使ってはいけない場合)を考えるのが、今やるべきことでしょう。想像と創造の能力をもつ、コンピュータより優れた思考機関である脳。身体と連動して働く脳。これを使わずにいて衰えさせてしまったら取り返しのつかないことになると思うと恐いのですが。

中村桂子 (名誉館長)

名誉館長よりご挨拶