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表現スタッフ日記

展示季刊「生命誌」を企画・制作する「表現を通して生きものを考えるセクター」のスタッフが、日頃に思うことや展示のメイキング裏話を紹介します。月二回、スタッフが交替で更新しています。

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【3つの立場で物語を紡ぐ】

2018年6月15日

中井 彩香

4月から表現研究員としてお仕事を始めて早くも2ヶ月以上が経過しました。もうそんなに経ったのかと驚きながら、実際に何をしていたのだろうと振り返ってみたところ、最初に思い浮かんだのは季刊生命誌の作成です。前回の表現スタッフ日記(4月16日)でも少し触れましたが、初めて携わった季刊生命誌97号が6月1日に発行されました。みなさまもう読んでいただけましたでしょうか?私が担当したのはResearch01「ホヤの光受容タンパク質から眼の進化を追う(岡山大学 小島慧一先生)」です。光を「容れる」タンパク質であるオプシンに注目した研究から、無脊椎動物から脊椎動物まで、生きものの歴史のつながりを感じることのできる物語です。先輩にたくさん助言をいただきながら作成しました。初めて自分で書いた文章は、簡潔な研究の”説明文”で、堅苦しく近寄りがたくなってしまいました。チーフから「表現者としての自分の気持ちと、研究者の気持ちと、物語を子供に読み聞かせるお母さん(生活者)のような気持ち、その3つの立場で考えるんだよ。」と教えていただきました。どうやら最初に書いたものは、自分と研究者の2人分の気持ちだけで書いていたようです。なるほどと理解したものの1人3役を実践するのは至難の技です。生きものの研究の“説明文”を書くのではなく、“物語”を紡ぐというのはとても繊細で難しいことだなと痛感しました。しかし、チーフや先輩の丁寧で的確なアドバイスにより、言葉の選び方や順番を変えるなど様々な工夫で、柔らかく語りかけるような“物語”へと変わっていくのを実感し、“説明文”を“物語”へと変えていく楽しみを感じながら編集に取り組むことができました。文章は、たとえ意味は同じでも言葉の選びかたや使い方、書く人の気持ちの立ち位置で大きく印象が変わることを改めて認識しました。また、著者の小島慧一先生からも「自分の研究内容が大変わかりやすく表現されている」と喜んでいただくことができ、やりがいや達成感といったものを感じることもできました。

そのような経験を経ながら、担当として一から携わった季刊生命誌には、今までとは違う愛着のようなものが湧いています。今年の6月1日は、新しい季刊誌の発行を楽しみに待っていたこれまでの気持ちに加え、たくさんの人に「読んでほしい」という気持ちも重なってドキドキしながら迎えました。季刊生命誌97号、ぜひご一読ください。

ほっとしたのも束の間、既に次号に向けた準備を進めています。わくわくしながら、自分の中の3人(表現者・研究者・生活者)と次号の物語のことを考えています。

[ 中井 彩香 ]

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