展示や季刊「生命誌」を企画・制作する「表現を通して生きものを考えるセクター」のスタッフが、日頃に思うことや展示のメイキング裏話を紹介します。月二回、スタッフが交替で更新しています。
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【長新太さん】
2016年6月15日
はじめまして。この6月から表現セクターのスタッフに加わった星野敬子です。
大学では生命科学を専攻し、ミジンコの形態形成に関わる遺伝子の研究をしました。なぜ生命科学かというと、田舎に育ち単純に生きものが好きだったことと、こどものころはじめて顕微鏡でのぞいた生きものの世界に息を飲んだからでした。美しさの原点をみたような気持ちがずっと残っています。
その後、科学と芸術・社会との接点をもとめてイギリスの大学院でホリスティック・サイエンス(Holistic:全体的な)を学び、バイオミミクリー/バイオミメティクス(生物規範工学)の分野で、生きものとデザインのあいだをつなぐ仕事などを経験しました。応用を視野に入れた科学技術に携わるなかで、もっと純粋に生きものを見つめてみたい、そこから見えてくる社会を考えてみたい、という思いが募りました。この度、学生のころから関心をもってきた生命誌の仕事に携われることを、とてもうれしく思います。
採用試験では、不安と期待のなか面接に臨みました。まずは、お題として出された過去の研究業務実績をプレゼンテーション。終始緊張しっぱなしのわたし。その後の質疑応答で、西川顧問から「表現者としてモデルとしている人は誰か」と問われました。ぱっと思いついたのは、大好きな絵本作家の長新太さん。しかし、アカデミックな質問が続き、ピリッとした雰囲気に呑まれていたわたしは、質問の答えとして的はずれな気がして、しばし絶句。他にぱっと思いつかず、ためらいつつも「長さんです」と答えました。その瞬間、中村館長と村田チーフからふふっと笑いが。よかったあ、うれしいなあ!と思いました。それから一気にリラックスして、自分らしい話し方ができました。
長さんの魅力は、彼の全存在がひらかれているような、あの自由さと楽しさ。彼が描く世界にいつもあっと驚き、感動します。しかし、こーんな自由な長さんは「作品はひとりよがりじゃいけない、僕は普遍性を大事にしている」というようなことを何かで書いていました。そう、彼が描く世界にはいつも共感があると思うのです。
生命誌研究館は、新しい知に挑むひらかれた場所。あなたが思うように思いっきりやりなさい、それがこの場ですよと言ってもらったような気がしました。そしてその思いは、働きはじめて数日のいま、さらに強まっています。同僚の川名さんは「館員の人たちっておもしろいんですよ」とまだまだ慣れないわたしに入れ知恵してくれます。中村館長を筆頭に、なるほどユニークで素敵です。館員に共通しているのは、生命誌を我がごととしていることなんじゃないかと感じます。当館にお越しになった際には、その人柄にもぜひふれてみてください。
生きものの研究を通じて、生きるを考える生命誌研究館。わたし自身が生きるということともまるごと重ねて、生命誌に取り組んでみたいと思います。表現セクターでどんな仕事ができるのか、どんな人生を歩んでいくのか、これからますます楽しみです。どうぞよろしくお願いします。