展示や季刊「生命誌」を企画・制作する「表現を通して生きものを考えるセクター」のスタッフが、日頃に思うことや展示のメイキング裏話を紹介します。月二回、スタッフが交替で更新しています。
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【ものがたりを生きる】
2016年7月1日
前回ここに、「目をあわせること、聞くこと」という題で、濱口竜介監督の著書に寄せて書いた事が、なんと映画「ハッピーアワー」の公式ホームページに映画評の一つとしてリンク紹介され、嬉しいような、申しわけ無いような心地がしましたが、声を聞いて頂けたことに気をよくして今回はその続編です。
濱口監督は、酒井耕監督との共同による東北記録映画三部作「なみのおと」「なみのこえ」「うたうひと」の制作過程で、「語る」こととその背後にある「聞く」ことについての考えを深めたということです。映画は、東日本大震災の体験をいかに後の世に伝え得るかという問いに正面から向き合った必見の(こう呼んで差し支えなければ)ロードムービーです。この撮影で仙台入りしたお二人は「みやぎ民話の会」に出会います。会の顧問の小野和子さんは、東北各地で伝承された民話の採訪を45年に渡って続けてこられた方です。「名もなく田を耕し、山で木を切り、魚を捕って暮らしてきた方々」を訪ね歩き、民話を語って頂き、それをまた後の世に語り伝えるというお仕事を続けておられます。両監督は、小野さんらの民話の聞き語りの光景に惹き付けられたと語っています。私も、その後を追うように、先日、せんだいメディアテークの皆様のご助力を得て、小野和子先生のお話を伺って参りました。民話を語る声というものは、今、語る語り手一人の「単声」ではない。代々語り継いだ祖先の「複声」として語られるのだということです。みやぎ民話の会では、民話を語り継ぐことと同じようにして、震災を体験された方の語る「あの日」を伝える試みにも取り組んでおられます。先述の三部作のうち「なみのおと」と「なみのこえ」は震災の体験を、そして第三作の「うたうひと」は民話を語る記録映画です。
私は、高槻で「生命誌を考える映画鑑賞会」という催しを準備しています。昨年に引き続き2回目の開催となる今年は、11月18日(金)、19日(土)の2日間、会場は高槻現代劇場の402室を予定しています。昨年のテーマは「人間は生きものであり自然の一部である」。今年は、このことも継承したうえで「ものがたりを生きる」をテーマとしました。上映作品は、「水と風と生きものと 中村桂子・生命誌を紡ぐ」と、東北記録映画三部作から第三部「うたうひと」、そして、ヴィム・ヴェンダース監督作品「セバスチャン・サルガド 地球へのラブレター」の三本です。自然の中で生きものの一つとして生きる私たち人間のものがたりを、それを映画に込めた眼差しを、受け止めて頂けることを願って。