展示や季刊「生命誌」を企画・制作する「表現を通して生きものを考えるセクター」のスタッフが、日頃に思うことや展示のメイキング裏話を紹介します。月二回、スタッフが交替で更新しています。
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【大村智先生、おめでとうございます】
2015年10月15日
ノーベル生理学・医学賞を受賞された大村智先生、おめでとうございます。季刊生命誌84号の「サイエンティスト・ライブラリー」にご登場いただくべく、昨年末に取材に伺ったときには、大村先生とスタッフの方にとても親切に対応していただき、貴重な資料をたくさんいただいたのを思い出します。研究所全体が和気あいあいとした雰囲気で、活気に満ちていたのも印象的でした。
報道では、先生の発見を元に作られたイベルメクチンが熱帯の多くの人々を救ったことが話題になりましたが、私たちに身近なところでは、犬のフィラリア予防薬にもイベルメクチンが入っています(うちの2頭の犬にも思わず、「お前たちもお世話になってるんやで」と言ってしまいました)。このほか、先生のチームが微生物から発見した化学成分は500近くにのぼり、医薬品のみならず農薬や研究試薬としても利用されているというのですから、人類への貢献は計り知れません。
研究だけに留まらない、お仕事の幅の広さも先生の魅力で、故郷の山梨県韮崎市に建設された「韮崎大村美術館」と「白山温泉」は有名な観光スポットになっています。絵画を楽しみ、美味しいお蕎麦を食べて、温泉に浸かって1日のんびり過ごせるようにとコースを考えて作られたとのことで、研究者とは思えない行き届いた心配りに驚いてしまいました。いまは人材育成に力を入れておられるそうで、豊かな感性と想像力を引き継ぐ人が育ってくれることを願って止みません。
さて、大村先生の記事を収録した「サイエンティスト・ライブラリー」は、生命科学・生物学の分野に貢献した科学者たちの人生を紹介する、生命誌創刊以来の人気コーナーです。最近の記事としては、85歳の今もなお現役の実験科学者、由良隆先生(83号)や、アフリカ探検の末にゴリラと人の共生の道を開いた、人類学の山極寿一先生(85号)、世界中の海を駆け回ってあらゆる魚貝中毒の原因を解き明かした、海洋化学の安元健先生(86号)が登場し、一人一人が自身の言葉で研究と人生を語ります。彼らの若き日々の苦労や喜びに共感しながら読み進めていただければ、専門的で難しいと思われがちな生命科学も、より身近に感じられることと思います。さらに年内には、これまで紹介してきた80余名の科学者の歴史を俯瞰し、生命科学の歴史を振り返るコンテンツも追加予定です。これからも生命誌の「サイエンティスト・ライブラリー」にご期待ください。