展示や季刊「生命誌」を企画・制作する「表現を通して生きものを考えるセクター」のスタッフが、日頃に思うことや展示のメイキング裏話を紹介します。月二回、スタッフが交替で更新しています。
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統計を使えるように
2013年12月16日
生物学・生態学・心理学など、ばらつきの多いデータを扱う分野の人の多くは、「統計」に悩まされた経験をお持ちだと思います。「(すぐ・よく)わかる統計」や「(すぐ・今日から)使える統計」というタイトルの本が山のように出ていることからも、統計に悩む人がいかに多いかが伺えます。植物生態学が専門の私もその一人で、まさに現在「使える統計」といった類の本を手に、データと格闘しています。
統計学は科学には不可欠なものです。限られたデータから、ある値を推測したり、ある現象に関連する要因を検出する方法を提供してくれます。コンピュータの進歩によって大量のデータ処理が可能になった昨今では、統計学はシミュレーションとしての存在意義が強くなり、未来予測をも可能にする分野として期待されているようです。(統計的手法の説明は科学雑誌「Newton」12月号の特集「統計の威力」が分かりやすかったです)
一方で、統計に基づいた結果に頼りすぎることを問題視する意見がずっと昔からありました。コンピュータが生まれる遥か前、19世紀の医学者クロード・ベルナールが著した「実験医学序説」には、「統計学に立脚している限り、医学は永久に推論科学に止まるだろう」という一文があります。統計学的に導いた値(結論)はあくまで推測値であり、決定的な値(デテルミニスム)そのものではないということです。
統計への期待が高まっている今、コンピュータの進歩は彼の指摘した問題を克服したのでしょうか。それとも忘れられているだけなのでしょうか。最近の統計学は複雑になりすぎて、もはや私には判断できないところです。少なくとも統計に使われるのではなく使う側に立つ努力は必要!と自分を奮い立たせて、「使える統計」の本を開こうと思います。