展示や季刊「生命誌」を企画・制作する「表現を通して生きものを考えるセクター」のスタッフが、日頃に思うことや展示のメイキング裏話を紹介します。月二回、スタッフが交替で更新しています。
バックナンバー
【思い通りにするか、しないか】
2013年3月15日
3月は誰にとってもあわただしい時期かと思います。引越しや送別会、予算処理など、親しい人との別れと仕事の忙しさであっという間に過ぎるという感じでしょうか。3月は、山野で新芽が動き始める時期でもあります。植物の野外生態を研究する人にとって、年度末のドタバタに加えて、研究をスタートせねばならない時期でもあるのです。3月を皮切りに、年度初めの4月、ゴールデンウィークの5月、そして梅雨に差し掛かるまでに、次々と葉が開き枝が伸び、花が咲き…あまりにも早いので、全て記録することはとてもできません。ちょっと待って!と叫びたくなります。しかしめまぐるしい成長期が終わると、植物は今度はぴたっと止まってしまいます。もう一年分のデータが欲しいとなると、冬を待たねばなりません。今度は逆に、早くして!と叫びたくなります。野生のままの植物は何一つ思い通りになりません。だから研究の発展は非常に遅いのです。
いっぽう実験室で植物を扱う人たちは、叫ぶだけで済ませることはありません。早く成長してくれて、扱いやすい植物を実験材料にすることが多いようです。とても賢い選択だと思いますが、選ばれた植物が特殊なものに映ることがあります。それはまさに「早く成長してくれて扱いやすい」という強い個性を持っているのです。この植物から見出された性質を、全ての植物に普遍なものと考えるのは危険に思えます。
野外の研究者は、思い通りにしなさすぎる。実験室の研究者は、思い通りにしすぎる。植物を扱う研究者でも、対象に向かう姿勢はずいぶん違います。そのせいか、驚くほどにお互いの研究のことを知りません。それぞれの研究に限界があり、長所があることを認めあった上で、お互いの分野に踏み込んで行けば、新鮮な驚きと発見があると思うのですが。