展示や季刊「生命誌」を企画・制作する「表現を通して生きものを考えるセクター」のスタッフが、日頃に思うことや展示のメイキング裏話を紹介します。月二回、スタッフが交替で更新しています。
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【にじんだ花】
2012年8月15日
我が家の玄関を出てすぐ左に折れると、人が二人すれ違うのがやっとの細い路地があります。この路地を十歩ほど進むと、「沈丁花」のこんもりとした花壇があり、春先には甘い香りが漂ってきます。花壇を横に見ながらまた十歩ほど進むと、この界隈で一番大きな街道に差し掛かかります。私が住んでいる大山崎は、かつて京から下関へと延びるこの西国街道沿いの宿場町として栄えました。
沈丁花が終わった頃にこの街道を渡りながら見上げると、ぼとんと落ちてきそうなくらいに満開になった「八重桜」がこちらを見下ろしています。それに変わって今の季節はというと、「さるすべり」の桃色の花が見事に咲き誇っています。暑い季節は大気がゆらゆらと揺れ、さるすべりの花はにじんで見えます。
さて、生命誌研究館の1階のホールにも、「にじんだ花」が咲きました。1997年に書家の高嶋悠光さんが咲かせてくださった花が、再び開いたのです。ガラス窓の向こうに見える黒竹を背景にすると、白と黒のアートにも関わらず、あたかも明るい色の花が咲いているようです。少し近づいて眺めてみてください。和紙に染み込んだ墨が、見事な「にじみ」をつくっています。0と1との間に広がる無限の連なりがそこにはあります。