展示や季刊「生命誌」を企画・制作する「表現を通して生きものを考えるセクター」のスタッフが、日頃に思うことや展示のメイキング裏話を紹介します。月二回、スタッフが交替で更新しています。
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【粘菌こぼれ話】
先日発行した季刊『生命誌』65号で、東大の澤井哲先生の記事を担当しました。リサーチの著者候補を探しているとき、眼にとまった美しい「らせん波」の写真。細胞性粘菌が放出するシグナル分子、サイクリックAMPによる波の動きが自己組織化を引き起こすというお話です。飢餓状態になると、増殖をくり返していた数万個のアメーバ細胞たちが次世代の胞子をつくるために「みんな集まろう!」と全会一致して波の中心に集合し、多細胞体となります(詳細はジャーナルを読んで下さい)。 取材では、記事にする部分を中心に聴きますが、もちろん脱線もあります(そこがおもしろいのです)。今回のジャーナルには実は続きがあります。その内容がとても印象深かったので、この場を借りて紹介させて下さい。 ジャーナルでは、数万個のアメーバ細胞が協調して多細胞体(子実体)となるとあります。実は、それとは別に高温多湿の状況では、アメーバ細胞は「マクロシスト」と呼ばれる休眠構造(タマゴみたいなもの)を形成します。マクロシストは200個程度の細胞が集まってできるのですが、協調的な行動によってできるのではありません。親玉となる細胞がcAMPを放出し、集まってくる細胞をどんどん食べて成長してつくられるのです(最終的に親玉細胞が次世代となる)。澤井先生は、子実体をつくる行動が「民主主義」であるとするならば、これは「独裁主義」のようだとおっしゃっていました。両極端ですが、どちらも「個」ではなく「種」を残していくためにうまく機能しているしくみなのだなあと感心しました。 人間は個人が色々な考えを持っているので、粘菌みたいなわかりやすい生き方は難しいですが、皆が言いたいことだけを言っても物事は前に進みません。足の引っ張り合いをしているなあと思うこともしばしば。全体をうまく機能させるには個人としてはどうすればいいのか、粘菌のふるまいからわかることはまだ色々あるようです。 |
[ 板橋涼子 ] |