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表現スタッフ日記

展示季刊「生命誌」を企画・制作する「表現を通して生きものを考えるセクター」のスタッフが、日頃に思うことや展示のメイキング裏話を紹介します。月二回、スタッフが交替で更新しています。

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【正常に展開する組織】

村田英克 今、研究セクターの秋山さんと一緒に表現に取り組んでいます。そんな中で、ふと日常に重ねてこんな風に考えました。どっちが前で、どっちが後か、クモの初期胚でクムルスの細胞集団はそれを読み取って、一生懸命、自分の仕事をして胚盤に背腹軸をもたらす。そのことが胚全体として見たときの正常な形づくりの一翼を担っていることになる。しかも、急に、「前だ、後だ」と言っても動けず時間をかけて前後パターンが形成されてくることが必要らしい。dppを分泌しながら上皮細胞にシグナルを送り胚盤の背側領域を決めるクムルスの細胞集団と、胚盤の縁の領域に前側の特徴をもたらす分泌因子ヘッジホッグのシグナルカスケード。お互いが協調し合いつつ、それぞれプロフェッショナルに仕事を全うしないと全体はうまくまわらない。
 この場合のクモの胚発生をオートポイエティックなしくみとして見れば、個体というシステム全体は、前後パターンを形成するという機能単位と、背腹軸を形成するという機能単位が、コミュニケーションすることで、一つ上の階層では組織が形成されてくると捉えられる。社会的に人間が営む組織も同じだと思う。人間一人一人はそれ自身がオートポイエティックな存在だが、上の階層から捉えた全体の下で個々は機能単位と見なすことができる(50号鼎談、西垣通先生の談を参照してください)。生命誌研究館という学問する組織も例外ではありません。それぞれの機能単位は自ら創発しているが、全体から見ると機能している。私たちの組織では、創発するそれぞれがミッションとして持つ「生命誌」というゲノムに基づいて自分の仕事をプロフェショナルに全力で取り組む。お互いをプロフェショナルとして尊重し、協調し合いながら、考えるべきことを考えて実行していれば、余計なことはせずとも、自ずと組織全体はうまくまわる。しかも、最も生命誌研究館らしい存在として展開する。組織は機械ではないので、先に、行き過ぎた仕組みを設計したり、無理して、既存の枠組みをあてはめるようなことはするべきではないと私は考えます。西垣先生の最新刊『ネットとリアルのあいだ〜生きるための情報学』によれば、「社会的組織では、人間に拘束が加えられる。」のだが、「拘束が論理的な手かせ足かせでなく、身体的共感となる」組織もあるとのこと。私たちも、「かせ」のような組織の枠組みには囚われず、生命誌を研究し表現することを通じて、意味のある情報をやりとりして柔軟に展開し続ける組織でありたいと、日々、奮闘を重ねています。

ハエとクモ、そしてヒトの祖先を知ろうラボ:最新論文の紹介
生命誌50号鼎談「学問と日常を一緒に」


 [ 村田英克 ]

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