1. トップ
  2. 語り合う
  3. 【足下から春】

表現スタッフ日記

展示季刊「生命誌」を企画・制作する「表現を通して生きものを考えるセクター」のスタッフが、日頃に思うことや展示のメイキング裏話を紹介します。月二回、スタッフが交替で更新しています。

バックナンバー

【足下から春】

山崎 梓 まだ少し肌寒い日が続いていますが、ずいぶん陽射しが柔らかくなってきました。足下を見るといつの間にかオオイヌノフグリの花が咲いていて、春がすぐ近くに来ているのだと実感します。私が初めて生命誌研究館で館内ガイドをした日から、もうすぐ一年がたつのかと思うと、本当にあっという間に感じられます。
 ところで、先日は「啓蟄」でした。BRHカード63号の表紙にも土壌動物の生活史が紹介されていますが、土の中で冬越ししていた虫達がこの頃に地上に出てくるといわれています。今年はまだ気温も低く、残念ながらそれらしい虫を見つけることはできませんでした。けれどもきっと虫たちも、土や朽ち木の中で外に出る準備をしているのでしょう。
 私は、生命誌研究館でガイドをするかたわら、普段は大学院で昆虫の生態を研究しています。昆虫には、厳しい冬を乗り越えるために、卵や蛹など様々な状態で休眠する種が多くいます。休眠するには冬が来るもっと前に、気温が下がり日が短くなる時期を経験しなければなりませんし、休眠から覚めるにも冬の寒さを経験して、気温が上がって日が長くなるという両方の刺激が揃わないといけません。間違った時期に出てきてしまわないように、虫たちが二重の刺激でしか反応しない精密な仕組みを持っているのには驚かされます。このような、季節変化に対する昆虫の反応も、毎年きちんと季節がめぐってくるからこそ生まれた仕組みなのだ、と実感するようになりました。これも、生命誌研究館で展示ガイドを続けていくうちに、DNAや細胞というミクロの現象から、地球とオサムシの関係といったマクロな現象までを語りながら、様々な生命現象の関わりあいを考えることが身に付いたからなのかもしれません。
 この一年、骨や卵、DNAや細胞、さらには地球の歴史といった多様な展示のガイドをしながら、自分の研究分野の中では見過ごしていた生き物に対する自分なりの新しい発見もありましたし、これまで漠然と考えていた「生きている」とはどういうことかを改めて考える機会にもなり、とても濃い一年になりました。伝えることの難しさや楽しさを経験して得たものを、これから社会人として生活するなかでも活かしていきたいと思います。そして、この生命誌研究館で “表現を通して生きものを考えるセクター” の皆さんをはじめ、沢山の方に出会えて楽しい日々を過ごすことができました。一年間、本当にお世話になりました! また桜が満開になったら、今度は来館者としてじっくり展示を楽しみに来ようと思います。


 [ 山崎 梓 ]

表現スタッフ日記最新号へ