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表現スタッフ日記

展示季刊「生命誌」を企画・制作する「表現を通して生きものを考えるセクター」のスタッフが、日頃に思うことや展示のメイキング裏話を紹介します。月二回、スタッフが交替で更新しています。

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【予想を裏切ること】

吉川徹朗 いま、館内案内とはべつに、季刊『生命誌』の編集のお手伝いをしています。次の64号のリサーチでは、進化と生態という2つの現象をつなぐ、新たな分野の研究をされている生態学者の方を取りあげます。そこで、同じく生態学を研究していて関心を持っていたわたしが担当させていただくことになりました。
 先日、その研究者の方のところにインタヴューに伺う機会を得ました。下準備として著書や研究論文のいくつかに事前に目を通し、なんとか研究の輪郭をつかんだつもりでインタヴューに臨みます。そのときには、進化と生態をつなぐという明確な問題意識から始められた研究なのだろう、と想像をしていました。が、実際にお話を伺うとそれはまったくの誤解でした。研究をはじめた当初はある生態現象を探っていたが、これまでの考えでは説明ができない現象を発見し、その原因を追求するうちに思いがけず進化という全く別の現象に辿り着いたそうです。予想を裏切る実験結果から、思いがけず新たな視界が開けてくる興奮が感じられ、また、問題の設定自体が研究のプロセスのなかから生まれて変わってゆくという研究のダイナミズムに強い印象を受けました。
 やはり発見が生み出す研究のダイナミズム、そしてそれに出会った研究者の興奮というものは、論文だけからは想像しきれないところがあって、実際にお話を聞いてみないと分からないものだと実感しました。そして、研究の実際を伺った後には、再度論文を読んでもより立体的に読めるような気がしました。今度のカードを編集するにあたって、予想を裏切る発見というものが研究をドライブしてゆく、その魅力を伝えることを軸として考えました。それがうまくいったか否か、詳しくは次号のリサーチをご覧になってください。


 [ 吉川徹朗 ]

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