1. トップ
  2. 語り合う
  3. 【SICP研究がつくった渦】

表現スタッフ日記

展示季刊「生命誌」を企画・制作する「表現を通して生きものを考えるセクター」のスタッフが、日頃に思うことや展示のメイキング裏話を紹介します。月二回、スタッフが交替で更新しています。

バックナンバー

【SICP研究がつくった渦】

坂東明日佳
 今までSICP部屋に引きこもり気味だった私ですが、その殻を破り、8月に総合研究大学院大学で開催されたレクチャー「社会における科学リテラシー」 に参加し、研究発表をしてきました。内容は、前回書いた研究についてですが、その後、小さな粒だった研究も(1) 季刊生命誌の研究記事から日本全体の分子生物学研究へと対象を変更し(2) 研究内容が種・個体・組織・細胞・分子といった生物の階層のどこに対応づけられるか?をTHE CELLの教科書の章立てに沿って記事を整理することで調べ、(3) 研究による各階層のつながりを表した図を作成することで、細分化された分子生物学の全体像を捉える、というステップを経て少し大きな粒になったと思っています。次はこの作成した図を用いてコミュニケーション!というステップなわけです。
 図をビシバシ指示棒で叩くことだけは忘れないように気をつけて、無事(?)発表終了。すると、生物や化学専攻の若い大学院生達と予想以上に活発な議論を行うことができました。「今まで漠然とあればいいなと思っていた、分子生物学分野を概観できるものを具体的に提示してくれた」「ラボに配属される前の学部生に、まず研究の現状をこのような形で伝えると良いのではないか」「研究全体の歴史の流れの中に、現在の自分の研究も位置づけられると知ることができた」・・・このように、私たち若い学生が、細分化されて閉塞気味の研究室や学会の現状に対して「何か違う、何か見えない・・」と抱く、悶々としているけれど切実な想いを揺さぶりかけ、具体的な発言に変換して共有できたことに、とても感動しました!
 研究開始当初、この”悶々”とした気持ちをどこへ向けたらいいのか?と私も自分なりに真剣に考え、中村館長やSICPスタッフから意見を頂き、研究整理によって分子生物学研究の動向を掴むという結果も既に得てきました。それにも関わらず、今回のようにその成果を人前に示して、そこで議論が起きた時に初めて「若い学生が、研究全体の現状と歴史を踏まえて、自分自身の研究や未来について考えることができるモノ」をつくったんだ、これが一つのサイエンスコミュニケーション&プロダクションだ、という実感が湧きました。
 一見当たり前のようだけれど得難い、「つくって、知る。外に出し反応を得て、新たに知る」こと。私はこの表現活動に挑戦するのが好きなのだ、と身が引き締まる思いがしました。今回は研究者の卵たちとのコミュニケーションでしたが、今後も挑戦し続けるなら、次はどこでどのような渦をつくりたい?と、人に会うたびに自分に問いかけています。


 [ 坂東明日佳 ]

表現スタッフ日記最新号へ