展示や季刊「生命誌」を企画・制作する「表現を通して生きものを考えるセクター」のスタッフが、日頃に思うことや展示のメイキング裏話を紹介します。月二回、スタッフが交替で更新しています。
バックナンバー
【市民公開シンポジウムにて】
先日参加した、日本発生生物学会の第36回大会(6月11〜13日、札幌)でも、それを実感するようなことがありました。最終日の午後に「幹細胞・クローン動物研究と社会的課題」と題した市民公開シンポジウムが催されたのですが、これまで市民と研究者が対話するためのシンポジウムに参加したことが無かった私は、詳しいことを知らなければ思わず過剰反応してしまいたくなる「クローン」という言葉のイメージを十分認識しているつもりでしたので、「こういう研究はマッド・サイエンスとして十把一絡げにされちゃったりするのかなぁ」とか、「討論はヒステリックなものになってしまうのかなぁ」などと思いながら、研究者数名の、市民の方々に向けた発表を聞いていたのでした。しかし、それはとんでもなく失礼な発想であることが、プログラム最後の全体討論で分かりました。 全体討論で発言された市民の方々は、どなたも冷静で、非常に的確な質問を投げかけておられました。私はびっくりしてしまいました。なぜなら、討論研究者の発表では、ところどころ専門用語が説明なしで使われてしまっていたり、英語表記のままのスライドも少なくなく、市民の方々からすれば、正直、決して分かりやすいとは言えないものだったなと思っていたからです。それにも関わらず、市民の方々は、たくさんの情報の中から重要と思うものを選び取り、おそらくそれまでにご自身が持っていた情報と合わせて意見を組み上げて、発言されていたのです。私は本当に、心から感動してしまいました。 これはあくまでも、発生学会という、それほど大きくはない学会のシンポジウムに足を運ばれる、非常に積極的な人々の話です。けれども、あの全体討論で、研究者と市民が対話を通して研究のより良い方向性を探ったり、研究成果を分かち合える可能性を、私は十分に感じ取ることができました。 そして、そこまで積極的ではないけれども、例えば科学関連のニュースなどは気にして見ているというような、「ちょっとだけ積極的な人々」に提供すべき研究の情報は、もっと練られ洗練された、思わず足を止めてしまうような、思わず手に取ってしまうような、より高度に表現されたものであるべきで、JT生命誌研究館は、模索しながらもそれらを提供し続けている場所なのだと思っています。 私個人としては、研究の仕事をSICPに活かし、SICPの仕事を研究に活かしながら、自分にできることを少しずつ積み上げていきたいと思っています。 [加藤史子] |