展示や季刊「生命誌」を企画・制作する「表現を通して生きものを考えるセクター」のスタッフが、日頃に思うことや展示のメイキング裏話を紹介します。月二回、スタッフが交替で更新しています。
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【職場復帰】
さて、もう頭は次の号の生命誌、そして来年度にオープンする展示へと切り替えだ!!と先日も東京へ取材に行ったのですが、途中に読んだアレックス・カーの「犬と鬼-知られざる日本の肖像-」という本に、思いがけずはまってしまいました。日本の山、海、いたる場所がコンクリートで固められ、公共事業がどんどん進む。こんな光景をどうして作り続けるのかと、日本人の美意識と和魂洋才の和の危うさ(ここが面白いのですが)を筆者は嘆きます。さすがに気持ちが沈み、ふと新幹線の窓の外を見ると、田んぼに刺さった巨大広告や山を覆うテトラポットが目に入る。中でも、観光地の住民が落ち葉を嫌って木の切り倒しを陳情するという話は、差し迫った生活も自然現象もすべて自分たちの手中で解決しようとする、決して悪意はないから余計に難しい暮らしの習慣について、考えさせられました。同じ条件に自分がいたら、木を切り倒せと言わないだろうか、まさに対象への感受性(「愛づる心」と言うにはまだ照れくさいので)がいかに育ったかが根本的な問題になる気がします。 生命誌は生きものを基本に暮らしも考えるのですが、「好きなことをできて良いねえ」「まるで世の中とは違う空間だね」などと冷たく(?)言われることもあります。でも、生命誌は生命誌。流されないで我が道を進み、周りから変わっていく。すでに最近、そういう空気も感じています。残業もある私がSICPスタッフの仕事を続ける間、保育所で過ごしてくれているもうすぐ1歳の誕生日を迎える娘にも、当たり前なのに当たり前になっていない、生きものへの自然な感受性が育ってくれますようにと願いながら。 [桑子朋子] |