展示や季刊「生命誌」を企画・制作する「表現を通して生きものを考えるセクター」のスタッフが、日頃に思うことや展示のメイキング裏話を紹介します。月二回、スタッフが交替で更新しています。
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【取材日記】
というわけで、今回も取材日記となる。 その人は花房秀三郎先生。正常細胞にがん遺伝子があることを発見した人である。世界的なビッグであることはいうまでもない。長い外国での研究生活を経て、数年前に帰国された。お話の中に、当たり前のように出てくる名前は、これまたビッグ。研究の歴史に名を残す人たちがぞろぞろ。「実際につきあってみれば、みんな普通の人ですよ」。 ダイナミックに変わっていくサイエンスの世界に面白さを感じたという高校生のころ、サイエンスとは何かを必死で考え、自ら増殖する最小単位であるウィルスから生き物の本質に迫りたいと真剣に考えた大学院時代。ロックフェラー研究所へ教授として迎えられた時には、できるかなあ、と思いながら自分をテストするつもりだったという話など、がん研究の歴史を変えるような工夫をわかりやすく説明しながら、人柄のにじみ出るお話をして下さった。少し身体を悪くされていることもあって、お元気とは言えないが、時々覗く笑顔がとても可愛らしく(失礼)、若いころの写真そのまま。 学生のころからずっと研究と生活をともにしてきた照子夫人のことに話題を向けると、「ほんとうによかった」。 印象をひとことで言えば、非常にみずみずしく爽快なのである。本質というところからすべてを見ている人はこうなんだ、と納得。お話をもとに先生の研究人生を文章にして、次回、生命誌ジャーナルに載せる予定です。ぜひ読んでください。 ちょうどそんなことを考えているときに、工藤さんと文章談義。人のことについては書けるんだけど、自分のことを書くのは難しいね、と。人の話は面白いのだからしかたない。魅力のある人生に触れて、それを文章に再現するのは興味ある仕事である。そこから、自分は?という問いが、science communicationの次のステップになるのかな、と思いながら。 [高木章子] |