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ラボ日記

研究セクターのスタッフが、日常で思ったことや実験の現場の様子を紹介します。
月二回、スタッフが交替で更新しています。

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国際発生生物学会に参加して

2017年7月3日

小田 広樹

6月18日から22日にシンガポール国立大学で開催された国際発生生物学会第18回大会に参加してきました。大会の一番の目玉は5名のノーベル賞受賞者の講演だったと思います。ジョン・ガードン博士はリプログラミングのメカニズムを、ニュースライン・ホルハルト博士は魚の模様形成のメカニズムを、エリック•ヴィーシャウス博士はショウジョウバエの転写因子モルフォゲンが働くメカニズムを、最新のデータで熱く語りました。特にヴィーシャウス博士は、濃度依存的な転写調節に関する教科書的な説明を覆すデータを提示し、発生学を支えてきた概念がまだまだ大きく変わることを感じさせられました。彼の主張は、転写因子と(裸の)DNAの結合親和性の違いが重要なのではなく、重要なのは転写因子の濃度に依存したクロマチン構造の変化だということです。

その他の招待講演、ポスター発表を含め、モデル脊椎動物の研究が大勢を占めいていましたが、CRISPR/Cas9と呼ばれるゲノム編集技術の利用が無脊椎動物の研究に革命を起こしていることを感じさせる発表もありました。CRISPR/Cas9による特定の遺伝子に対する変異体作製で、チョウの翅の目玉模様を変えたり、アリの社会性行動を変化させたりすることができるようになっています。

招待講演者以外の口頭発表はわずかで、多くの参加者はポスター発表でした。私は、オオヒメグモ胚の表層上皮をモデルとした縞パターン形成の定量解析の結果をポスターで発表しました。多くの脊椎動物研究者の発表の中に埋もれた感は否めませんが、地道なアピールが大事だと考えています。

学会参加中に私たちの研究室の論文がオンライン雑誌に掲載されました(こちらをご覧下さい)。世界の研究者コミュニティーと進めてきたオオヒメグモのゲノム解読の論文も学会参加中に別のオンライン雑誌にアクセプトされ、近日公開予定です。

脊椎動物のモデル生物が積み上げてきた技術の大きさを痛感する学会参加でしたが、今後の技術開発の進展によっては、オオヒメグモも発生生物学分野で十分な価値を発揮できると考えています。


学会のオープニングで披露された"ライオンダンス"

[ ハエとクモ、そしてヒトの祖先を知ろうラボ 小田 広樹 ]

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