研究セクターのスタッフが、日常で思ったことや実験の現場の様子を紹介します。
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またまたシークエンサーの革命を体感
2017年6月15日
生物学の世界で「シーケンサー」というと、主にDNAの塩基配列を決定する機械のことを言います。「シークエンサー」と表記されることの方が多いですね。おそらく、今最も早い速度で技術革新が進行している分野ではないかと思います。
僕が学生の頃には、長い長い石英ガラスの板を2枚貼り合わせて、その間にアクリルアミドゲルを気泡が入らないように慎重に流し込んだものを使い、1サンプルにつき4レーンずつ電気泳動を行うことで塩基配列を決定していました。いわゆる「サンガー法」と呼ばれる塩基配列決定方法です。さすがにRI(放射性同位体)は使ったことがなくて、蛍光色素を使うものでした。
それが4色の蛍光を使うことで、1サンプルにつき1レーンの泳動で済むようになった時には驚きました。さらに、キャピラリー式シークエンサーが開発されて、割れやすくて高額な石英ガラスの取り扱いにビクビクしながらゲルを作成しなくてもよくなった時には、革命だな!と思ったものです。
サンガー法を使うシークエンサーにもいくつかの技術革新がありましたが、それらをひっくるめて第一世代と呼びます。そしてサンガー法ではない方法で塩基配列を決定するものを全て、次世代型シークエンサー(NGS)と呼びます。すっかり普及してしまいましたし、いろんな種類のものが登場しているし、もう「次世代」という呼び方自体が恥ずかしい気がしますので、「なんか知らんけど、ごっつい大量のデータを出す、シークエンサー」でNGSとするのが良いのではないかと思います。
NGSで、現在最も多く使われているのがイルミナ社の製品でしょう。当館にも下位機種のMiSeqがあり、大活躍しています。イルミナ社の製品をはじめとする第二世代のシークエンサーは、読める塩基配列は100〜300塩基と短い代わりに、大量のリードを産出することで得られる塩基配列の総量は莫大になり、小規模な研究室でもゲノム規模の研究に取り組むことが可能になりました。これはキャピラリー式シークエンサー登場以上の大革命でした。
しかし、データ量としては大量ではあるものの、ゲノムの配列を読む場合にもRNAの配列を読む場合にも、1リードあたりの配列が短いことによる問題が起きたため、長く読める1分子シークエンサーが注目されています。特に話題となっているのが、Nanopore社のMinIONでしょう。MinIONは、日本では「ミニオン」と読まれていますが、英語圏の人は「ミナィオン」と発音するようです。「ィ」は小さくて短いです。僕はどちらかといえばミニオンが好きですね。
このMinIONの何が凄いかというと、1分子のDNAを直接読んでしまうことができるので、精製したDNAの長さそのままのデータが出てきます。最もうまく使いこなしている研究室のデータでは、最長では900キロベースを超えるとか。イルミナ製の機械で読んだ短い配列を、頑張ってつなぎ合わせてもなかなかそんな長さにはなりませんが、大型計算機をブンブン言わせて繋ぎ合わせるという作業をしなくても、長い長い配列情報が得られるなんて脅威的です。
読まれる長さは精製したDNAの長さに依存するということで、DNA精製キットではどんな長さのものが手に入るのか試してみたら、よく使われているもののほとんどが20キロベース前後、高分子(長いDNA)精製用とされているものでも150キロベース前後です。これではMinIONの性能を全く活かせませんね。そこで、長いDNAを精製するために、昔々学生時代に行っていた完全手作業のDNA精製を行なっています。少しずつ改良を加えながらアゲハチョウのゲノムDNAの精製を繰り返し、ようやく満足できる長さと純度で精製できるようになってきました。MinIONを実際に使い始めてみると、とてつもない可能性を秘めた技術だと実感します。
NGSのほとんどが数千万円という値段の中、なんとMinIONは日本円に換算すると12万円ちょっとで買えてしまいます。とんでもなく安い。そしてゲノムDNAだけではなく、mRNAをcDNAに置き換えることなく直接読んでしまうことまで可能。本当の意味で革命だな!と思いますし、本当の意味での「次世代」に突入したと思いました。ただし、ほとんどの場合、かなり高スペックなパソコンの追加購入が必要になると思いますが、それでもトータルで見たら圧倒的に安いです。
今の大学院生にとって、NGSが最初に触れるシークエンサーで当たり前のものになっていて全然「次世代」じゃないのと同様に、もう数年も経ったらMinIONが普通で最も身近なシークエンサーになってしまうんでしょうね。シークエンサーの革命的な技術の進歩にワクワクする体験を何度もできたおじさん世代なので、私は運がいいなと思います。