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ラボ日記

研究セクターのスタッフが、日常で思ったことや実験の現場の様子を紹介します。
月二回、スタッフが交替で更新しています。

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昆虫の種多様性

2017年5月15日

有本 晃一

はじめまして、有本晃一と申します。2017年4月より生命誌研究館DNAから進化を探るラボ(蘇研究室)に奨励研究員として着任いたしました。どうぞよろしくお願いいたします。

私はこれまで「昆虫の多様性」を明らかにするために、昆虫の分類や系統、生態の研究を行ってきました。大学院ではハシリハリアリという主に熱帯林に分布するアリを研究対象にしてきました。調査はまず東南アジアのジャングルを訪れアリを採集することから始まります。ハシリハリアリは倒木や地面の中に潜んでいるため、積極的に探索しないと見つかりません。ジャングルを歩き回り、アリが潜む場所を探し当て、アリを採集していきます。採集したサンプルは研究室に持ち帰り、顕微鏡で観察し種名を決定します。しかし、多くの場合、種名はわかりません。それもそのはず、東南アジアに分布するハシリハリアリの大半が未記載種(新種)だったのです。大学院を卒業するときには、なんと100種以上の未記載種がいることが判明していました。既知種が60種程度でしたので、未記載種よりも既知種を採集する方が難しい状況です。私達が多様な昆虫のほんの一部分しか理解できていないことを実感させられる数字です。

蘇研究室で扱っているイチジクコバチに関しても状況は同じです。むしろアリよりもわかっていないことが多いかもしれません。海外はもちろんのこと日本国内からも名前がつけられていない種がいます。イチジクコバチは生態学ではなじみのある分類群で、植物との共生関係やメスに偏った性比など様々な研究の題材にされてきました。蘇研究室では系統解析や集団遺伝的解析が行われています。それにもかかわらず、分類学的な研究が近年進展していない状況には驚きました。

着任して1ヶ月。まだイチジクコバチの深淵には至っていませんが、この数ミリ程の小さなハチがどれほどの未知を包含しているのか、これから探っていくのが楽しみです。

[ DNAから進化を探るラボ 有本 晃一 ]

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