研究セクターのスタッフが、日常で思ったことや実験の現場の様子を紹介します。
月二回、スタッフが交替で更新しています。
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蜂から蝶へ
2017年5月1日
はじめまして。4月より「チョウが食草を見分けるしくみを探る」ラボの奨励研究員となりました宇賀神篤です。関東暮らしが長く、初めての関西での生活ということで、「どつかれるのではないか、どやされたらどうしよう」などと(非常に失礼な)心配を勝手にしていましたが、ひと月が経ち、そこそこ平穏に生活しています。
私はこれまで、昆虫の示すユニークな行動の仕組みを理解したいという動機の元、特にミツバチを対象に、脳の研究をしてきました。「昆虫の脳の研究をしています」と話すと、「ムシに脳があるんですか!?」と驚かれることが多いのですが、数年前の蘇研究員のラボ日記にもあります通り、昆虫にもバッチリ脳があります。そして、好みの異性の居場所を認識したり、美味しい餌の在り処や危険な場所を学習したりと、彼らなりに頭を使って懸命に生きているのです。中でもミツバチは、餌の在り処を覚えるだけでなく、巣に戻って仲間に「尻振りダンス」で情報を伝達するという極めて高度な能力を持つことで有名です。また、在来種のニホンミツバチは、天敵である巨大なオオスズメバチに襲われると、数百匹の働き蜂がスズメバチを囲んで発熱して殺してしまうという芸当を見せます。一方で、あまりにも複雑な行動は、仕組みを徹底的に調べ上げるには若干不向きだったりもします。もう少しだけ調べやすそうで、かつ充分に面白く、しかもあまり多くの人が研究していなさそうなテーマ(つくづく研究者というのは欲張りな生き物です)は何だろうかと考えたときに、私の頭に浮かんだのが尾﨑ラボで行われているアゲハチョウの食草認識の研究でした。幸運にも採用していただくことができ、大変嬉しく思っています。
これまでの尾﨑ラボの研究から、アケゲハチョウがミカンの仲間を認識する仕組みとして、前肢の先にミカンの葉の味を感じるセンサーを持つことがわかっています。味を肢で感じること自体は多くの昆虫に共通ですが、チョウの場合は「幼虫の好物の味」を感じる専用のセンサーを母親が持っているのです。しかし、そのセンサーの反応がどのようにして「お腹を曲げて卵を産む」という行動へ繋がるのかは不明なままです。この「母親が持つ不思議な感覚」を司る神経の仕組みを突き止めることを目指しています。蝶のように舞い、蜂のように刺す。そんなワクワクするような結果を楽しみにしています。