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ラボ日記

研究セクターのスタッフが、日常で思ったことや実験の現場の様子を紹介します。
月二回、スタッフが交替で更新しています。

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ケルン大を訪問して

2014年12月1日

小田 広樹

9月にオオヒメグモの国際ミーティングがあってドイツのイエナに行ってきましたが、そのついでにケルン大のジグフリード・ロス博士の研究室を訪問してきました。ロス博士は昆虫の体軸ができるメカニズムを研究していて、その分野の第一人者です。私たちを温かく迎えていただき、研究室のメンバーと話をしたり、研究設備を見たりして楽しく過ごさせていただきました。夕方にはセミナーの機会を作っていただき、カドヘリンの進化の話とオオヒメグモの体軸形成の話をすることができました。

ショウジョウバエ胚の前後軸、背腹軸は母親から産み落とされた卵の中ですでに直交した軸として分子基盤が確立していますが、ロス博士はその体軸の起源を母親のお腹の中で起こる卵形成に求め、卵母細胞の中で核が対称な位置(極)からどちらに向かって動くかで将来の胚の背腹の軸の向きが決まることを発見しました。そのことを示した論文の中で彼はシンプルで感動的な実験を報告しています。それは、ショウジョウバエの突然変異で卵母細胞の核が2つできてしまう突然変異があるのですが、そのような卵母細胞でその2つの核の動きを追跡し、背腹軸がどの向きにできるかを調べた実験です。この実験で、2つの核の動く方向はランダムであり、たまたま反対方向に動いたケースでは背中が二カ所に(核が動いた方向に)誘導され、あたかも重複胚ができたかのような状況になったのです。ショウジョウバエの卵母細胞の核には背中を誘導するシグナルの元となる情報が寄り添っていて、移動した先で背中を誘導することが、ロス博士らの研究で分かってきたのです。特に、背腹軸を生み出す核の動きの向きがランダムだという提案はおもしろいです。

ロス博士の研究室は、最近では、様々なモデル昆虫を使って背腹軸を決める分子メカニズムを調べています。クモを研究している人間から見ると、そのショウジョウバエの卵母細胞の中で起こる体軸形成は奇妙で、クモでは似たような状況が卵形成ではなく、胚発生の中で見られるのです。クモ胚では、背腹軸を生み出すシグナル源の非対称な動きは核の動きではなく、クムルスと呼ばれる細胞の塊の動きなのです。今回、ロス博士の研究室を訪問したのも、どんな体制や設備で他の昆虫の研究をやっているのか、また、クモとハエの違いを結びつけるような研究成果が得られているのかに興味があったからです。ロス博士を含め、その他の研究員からも未発表のデータを見せていただいたりして、楽しくディスカッションすることができました。

[ ハエとクモ、そしてヒトの祖先を知ろうラボ 小田 広樹 ]

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