研究セクターのスタッフが、日常で思ったことや実験の現場の様子を紹介します。
月二回、スタッフが交替で更新しています。
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【コトバの壁】
学部生の頃も合わせて、「研究」というものを始めて2年半ちょい・・・ついに公の場で自分の「仕事」を話す機会が巡ってきたのです。 実験室見学ツアーなどで何度も話すうちに、人前で話すのは随分慣れてきたなぁと感じていましたが、研究者の人たちを前にまともに研究の話をするのはこれが初めてです。そしてなんといっても、今回の学会は、国際学会。つまり、全部、英語なのです。日本で行われる学会なのに・・・英語!?ただでさえ緊張するのに、英語で話すなんて、本当に私にできるのでしょうか? 英語と言えば、BRHに来て、何度か使う機会がありました。まず最初は、昨年、京都での国際学会に、生命誌研究館の展示スタッフとして参加した時です。「生命誌」というものを英語で「Biohistory」と言うのですが、それを理解してもらうのに、とても苦労した記憶があります。特に難しかったのが、「生命誌の階段」でした。「生命38億年の歴史を、1段1億年で表現した階段で、DNAみたいな形をしてて、生き物の進化の中での多様性と共通性を・・・」と、だらだら直訳のへたくそな英語で伝えてみても、その面白さがどれだけ相手に伝わったのかと不安になりました。ただ、「チョウと食草のトランプ」を見て、その美しさや多様さに感動してもらえたのだけは、言葉を超えて伝わった気がしました。 また、先日ロシアからの留学生がやってきて、食草園前での「えさづくり実演」を英語で説明をすることになりました。「Ω食草園は、チョウのレストランで、幼虫のためのご飯である食草が植えてあって、さらに母チョウのための吸蜜植物もあって、幼虫のエサは限られていて、植物で育てると大変なので人工飼料をこうやって作って・・・」と、しどろもどろで説明をしてしまい、あまりの支離滅裂具合に、尾崎さんに助け船を出させてしまった程でした。案の定、説明の間、留学生はみんなポカンとしていました。だけどその後、ラボで飼っているモンキアゲハを食草園に放して見せると、チョウが舞う様子や、葉に止まって休む様子を見て、彼らの表情も生き生きし、食草園がチョウのために作られた場所であるということがすぐに伝わったように思いました。 この2つのエピソードで、私は、うまくコトバが通じなくても、ものを実際に見せることで、それを超えて感動を共有できるということをあらためて実感しました。(これに私が上手に英語で解説をつけられていたら、もっともっと深い感動を与えられたのになぁと思わずにはいられませんが) しかし今度は国際学会の発表の場です。研究に関するバックグラウンドから、私の興味や実験の方法、結果や今後の展望など、全てにおいて英語で話せなくてはいけません。さらにディスカッションもできなければなりません。論文を読むみたいに、辞書片手にできるものでもないし、丸暗記できるものでもないし・・・まして前述の2回のように、うまく伝わらなくてもなんとなく喜んでもらえればいいというものでもありません。 英語力というのは、こういうときに本当に大事だなと思います。毎回「あー、普段から勉強しておけば・・・」と思うのに、つい日々後回しになってしまい、いざ使わなければならない場になって初めて、やっと重い腰をあげられるような気がします。 9月まであと1ヵ月。学会のデビュー戦で英語発表という高い壁にぶち当たることになりました。幸い学会が開かれるのは日本なので、学会会場以外での言語の不安は必要ありません。英語はとにかく、研究のことを話せるようになりさえすればいいのです。 学生最後の夏、お祭りに花火に旅行に海に、誘惑はいっぱいですが、ちょっとこの夏は、本気で実験と英語を頑張ってみようと思います! | |
[昆虫と植物の共進化ラボ 宇戸口愛] |