研究セクターのスタッフが、日常で思ったことや実験の現場の様子を紹介します。
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【進化は環境に適応するため?】
2007年7月17日
環境に適応するために、生物が進化する、あるいは種分化すると思っている方が恐らく大勢おられると思います。しかしながら、この考え方に沿って考えると、「環境適応」は生物進化の“目的”となり、その目的を達成するために生物自身が積極的に体の形や機能などを変化させている、というように思われます。けれども、生物の進化は、何かの目的をもって、何かのために起きるのではなく、それはあくまでも結果論であり、自然選択(或いは偶然)の結果であるのです。もう少し説明してみると、様々な遺伝的変異が生物集団の中で常に起きています。それらの遺伝的変異は、生物の進化あるいは種分化を引き起こす必須条件で、それによって生物の表現型(形や機能など)が変わります(※1)。その中で、生存に不利なものは自然選択によって淘汰され、そうでないものは生き残り、結果的に環境に適したものが生き残るということになります。ですから、生物の進化は、環境に適応するために起きるものではなく、環境に適した結果なのです。生物の種も分化する必要があるかどうかではなく、結果的に分かれたものです。例えば、一つの生物集団が何かの物理的な障壁(例えば、川、山、海など)によって、二つの集団に分断され、互いに遺伝的交流(交配)ができなくなるため、両集団間の遺伝的差異は時間が経つにつれて段々大きくなります。ある期間が経つと、その遺伝的差異は大きくなりすぎて、例え障壁が消え、互いに接触できるようになったとしても、実際に交配が不可能、或いは交配しても子孫が残せない、つまり生殖隔離の状態になってしまいます。その結果、両集団は別々の種に分かれることになります。このように分岐した2種は表現型が大きく異なる可能性もあるし、あまり違わないこともあり得ます。また、この2種はその後、互いの分布域に侵入し合うことになれば、同じ場所に近縁2種が生息するような現象になるでしょう。こういった視点から進化や種分化を考えれば、冒頭のブナとイヌブナの種分化と生息域の形成についても理解されやすくなると思います。 今回は少々難しい内容のラボ日記になりましたが、読んで頂いた方には進化と種分化についての理解が少しでも深まることができれば嬉しく思います。 ※1 生物の表現型に影響を及ぼさない遺伝的変異も多く存在するが、それは自然選択を受けないため、今回の話から省いております。 | |
[DNAから共進化を探るラボ 蘇 智慧] |