研究セクターのスタッフが、日常で思ったことや実験の現場の様子を紹介します。
月二回、スタッフが交替で更新しています。
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知人の結婚式があったので、その前日の飛行機で久しぶりに故郷に帰りました。朝8時30分過ぎの田舎に向かう便だというのに、空席が全くない満席でした。団体の旅行客がいるらしく、機内では大阪弁がにぎやかに飛び交っていました。隣の席に座っている方は、どこかの大学の先生のようで、おそらく学会かシンボジウムの口頭発表で使うのだと思われるOHPシートを真剣な目でチェックしていました。
定刻通りに出発して約1時間、機長からアナウンスがありました。
「当機はただいま目的地の上空に居りますが、濃霧による視界不良のため着陸態勢にはいることができません。30分間天候の回復を待つことに致します。お急ぎのところ申し訳ございませんが、今しばらくお待ちください。」
空港には、一足先に帰省していた妻が迎えに来ています。だいぶ待たせることになってしまったなぁと少し心配しましたが、機内からは連絡のとりようがありません。このときはまだ、にぎやかな大阪弁も飛び交い続け、機内には気楽な雰囲気が流れていました。窓から見る限り、天気は良いのです。
約20分後、機長から2回目のアナウンスがありました。
「ただいま引き続き天候調査中ですが、このまま回復が見込めない場合、当機は他の空港に目的地を変更する可能性があります。ご了承くださいませ。」
この段階になると、いったいどこへつれて行かれてしまうのだろうという不安が込み上げてきました。さすがに大阪弁も聞こえなくなり、機内には緊張感が漂っています。
さらに20分後、機長から3回目のアナウンスがありました。
「天候回復の見込みがないため、当機は目的地を羽田・東京国際空港に変更します。」
その瞬間、乗客全員が友達になりました。そう、みんなババを引いた仲間です。この予期しない出来事に、静かな笑いが機内に広がりました。周囲を見渡すと、みんな笑顔で顔を見合わせています。隣りに座っていた大学の先生が、眩しいばかりの最高の笑顔でいいました。「いや〜、どうやっても発表には間に合わないですねぇ。」
大阪を出発して3時間を越える長旅の末、羽田空港に降り立ちました。妻に電話をすると、彼女も「笑うしかない状態」になっていました。どうしようもなくなったととき、人間って笑うものなんですね。妻によると、直前の到着予定便が次々近くの空港に変更され、残っていたのが羽田だけと言うことらしいです。その後はいったん東京駅に向かい、新幹線に乗り換えて故郷を目指し、順調なら午前11時には着いていたはずの目的地に夕方6時過ぎに到着しました。ゴールを目前に半分戻り、日本列島を行ったり来たり。何だか巨大なすごろくをやっていたかのような一日でした。
世の中何が起きるかわかりません。期せずして親友になってしまった先生の笑顔を教訓に、大切な用事があるときには前日に移動することにします。
[昆虫と植物の共進化ラボ 研究員 尾崎克久]
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