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中村桂子のちょっと一言

館長の中村桂子が、その時思うことを書き込むページです。月二回のペースで、1998年5月から更新を続けています。

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哲学や脳科学を勉強しなければ

2019年3月1日

「生命誌」は、人間は38億年の生命の歴史の中で生れたヒトであることを意識しましょうというところまでを考えてきました。そのことが人間としての生き方に関わることはもちろんです。たとえば「蟲愛づる姫君」という、これまで文学の世界では「おかしな子」としかされて来なかった女の子が重要な意味を持つ存在であることを指摘できたのも、「生命誌」あってのことでした。でもそれだけでは足りない、人間という視点でこころや社会や文化も考えなくてはいけないと思うようになりました。そこで、このところここでもあれこれ(とりとめもなくですが)書いてきました。

まず、本来苦手な哲学やちょっと面倒な脳科学に少しづつ手を出しています。その中で、生命誌も心や意識や文化など、これまで扱いかねてきたことを考えてみなさいと言ってくれている(私がそう思っているということですが)考え方に出会えたような気がしています。どうなるかはわかりませんが、少しづつ読み解いていこうと思います。一人は哲学者のジョン.R.サールで、自身を「生物学的自然主義」と呼んでいます。「自然主義」というのは、心的なものは自然の一部と考えるからであり、「生物学的」というのは考えを進めるにあたってコンピュータや言語などでなく生物学をとり入れていくということです。これを聞いただけで嬉しくなっています。勉強はこれからですが、この視点で何がわかってくるのか楽しみです。

もう一人は、脳神経科学者のアントニオ.ダマシオです。意識、創造性、文化の基本として感情が大切だと言い、その感情はバクテリア以来の「生きものらしさ」からの連続で考えられるというのです。そこにすべての始まりがあると言っています。まさに生命誌です。

どちらも、ていねいに読みよく考えなければなりません。でも、心、意識、文化などを人間だけのもの、脳のはたらきだけのものとせずに、「生きもの」につなげて考えるというところは、とても魅力的です。難しいからわからないと思わずに、少しづつ「生命誌」との関わりを見ていきたいと思っています。

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