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中村桂子のちょっと一言

館長の中村桂子が、その時思うことを書き込むページです。月二回のペースで、1998年5月から更新を続けています。

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カントの永遠平和を考える

2019年2月15日

前にも紹介したことがあったと思うのですが、カントの最晩年の著書に『永遠平和のために』があります。カントはもちろん18世紀ドイツの大哲学者である、あのイマヌエル・カントです。哲学の基本を語る「純粋理性批判」など、大事な著書とは知りながら難しくて敬遠してきました。でもこの本は小さくて、しかもとてもわかりやすいのです。本棚の「大切な本」のところに置いてよく眺めています。

昨日、さまざまな会社のリーダー候補が参加するセミナーでこの本を読みました(一部ですが)。カントは、平和とは「当面戦争はしませんという協定を結んで生れるようなものではない」と断言します。戦争などまったく考えられない状況が平和なのです。つまり平和とは本質的に永遠のものなのです。カントは、平和の具体は「人に対する敵意のない」状況であると言います。「そんなの無理」。ほとんどの人から出てくる答はこれです。

でも、「生命誌」はこう言いたいのです。地球上にいる多様な生きものはすべて38億年前に生れた祖先細胞から生れた仲間であり、その生きものの一つである人間は、20万年ほど前にアフリカで生れた少数の祖先をもつ仲間であることが明らかにされました。この事実を冷静に受け止めるなら、「敵意」をもたない状況こそ自然ではないでしょうか。もちろん兄弟げんかくらいはしますけれど。カントにこれを伝えて「永遠平和」は決して夢ではありませんよねとお話したかったと今強く思っています。

もちろん今を共に生きる日人々に、まずカントの思いを正面から受け止めて下さいと伝え、そこに生命誌を重ねることの大切さを語らなければなりません。このように考えているとどうしても理解できないのがさまざまな媒体にはびこっている「ヘイト・スピーチ」です。人間という生きものがどのようにして生れてきたかという歴史、つまり生命誌の中での人間の歴史を考えればこのような行為をするのは人間ではないという答が出てきますので。

平成30年という時代を終える今、このような基本から考えなければいけないところに私たちはいるのではないでしょうか。

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