館長の中村桂子が、その時思うことを書き込むページです。月二回のペースで、1998年5月から更新を続けています。
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平安時代を思うんです
2018年9月3日
しろうととして、ずーっと思っていたことが専門家の発言で保証されて今嬉しくなっています。国際日本文化研究センターの倉本一宏教授(歴史学)が毎日新聞(8月13日)のインタビューでおっしゃっていました。「僕は平安時代を思うんです。平安貴族の文化は最高峰のレベルだったし、経済的にもすごく豊かでした。戦いで死ぬこともないし、死刑もなかった。それがいきなり武士の時代になり、人を殺すことがあたりまえになった。大河ドラマなんかもそうでしょう。戦国時代か幕末の物語ばかり。そんなに戦って死ぬのが好きなんですかね。日本は本来、そんな国ではなかったんですが」
平安時代と言えば、紫式部の「源氏物語」に代表される女性が活躍する文化です。物語の登場人物とはいえ、研究館にとってなくてはならない存在である「蟲愛づる姫君」もいらっしゃいました(なんの根拠もなく物語が生れることはないと思いますので、こんなお姫様いらしたに違いないと思っています)。まさに世界に先がけた文化です。清少納言のようなちょっと斜に構えた生き方もできるところがいいなあと思います。
倉本先生のおっしゃる通り、大河ドラマはなぜか戦国時代と幕末ばかりです。毎年、またかと思い続けてきました。戦記物と違って女性も登場する歴史物語となっているところは評価できますが、主体は戦いです。個人としては、とにかく戦いが好きではないので「見ません」ですませていますが、先生が指摘なさった「日本は本来そんな国ではない」という問いは残っています。
そして、ドラマでなく現実、21世紀という今について、戦いでない選択を考えなければなりません。それには歴史をきちんと見なければいけないと改めて教えられました。
〈付録〉
山口県で行方不明になった二才の坊やを発見した大分県からの捜索ボランティアの男性が話題になっています。確かにすごいですね。実はこの報道に接した時、もう一つすごいと思ったのが男の子の「ぼく、ここ」です。たった二語で必要なことをすべて伝えていて完璧です。二才児にはこれができるのですね。長々と中味のないことを喋る大人が多い中、人間は必要不可欠なことを簡潔に表現する能力を持っていることを思い出させてくれました。