館長の中村桂子が、その時思うことを書き込むページです。月二回のペースで、1998年5月から更新を続けています。
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考え続けるとくに難しい課題
2016年5月16日
ゲノム解析からヒトは一種ということは明らかで、いわゆる人種はないというのが現在の科学から出される結論です。とはいえ、アフリカを出て世界中に広まるようになって5万年。さまざまな地域での環境に合った選択の結果、遺伝的特徴のある人口集団が存在します。そこでそれに注目して、地域による違いを考えたい人が出てきます。とくに欧米の中に。
現代社会を支える科学・科学技術も経済システムもヨーロッパ発でありそれが世界へと広まった、そして未だに先進国と途上国があるというのが基本認識です。もっとも、この認識はありながら、今の流れは、その原因は人間そのものというより地理的要素にあると考えるジャレド・ダイヤモンドの『銃・鉄・病原菌』のようなところにあります。ところが、そこには遺伝的要因があるのではないかと、イギリスの科学ジャーナリストニコラス・ウェイドが言い始めました。『人類のやっかいな遺産』です(この本はかなり雑なのでお勧めはしません)。
私は、環境か遺伝かという前に、この流れそのものに疑問を呈したい気持です。今の社会のありようはそんなに誇れるものですかという問いです。科学にしてもとても偏っています。わかりやすいところだけぐんぐん進めて、わからないところは知らん顔。もっとじっくり全体を考える知を進めた方がよかったのではないかと思えてしかたありません。人間のありようも上等になったとは思えない・・・それどころか最近は、リーダーと呼ばれる人たちが品格を欠き、尊敬できないと思うことしばしばです。
ヨーロッパの人たちが余計なことをせずにいてくれたら、インド、中国、日本を含むアジア、中南米、中東、アフリカそれぞれの社会がゆったりと文化を育くみ、内発的に便利さも求めていく世界ができたのではないかと思うのです。その方が豊かと言えるのではないかと。変化は楽しみたいですし、昨日と違う今日があるのはよいのですが、こんなスピードで一律化されるのは幸せではありません。