館長の中村桂子が、その時思うことを書き込むページです。月二回のペースで、1998年5月から更新を続けています。
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立冬を迎えて寒くなりました
2013年11月15日
立冬が過ぎたら、身に沁みる寒い風が吹き始め、冬らしくなってきました。二十四節気はどれも魅力的な言葉でつい使いたくなりますが、なんだか実感と合わないところもあります。二月四日ごろの立春は寒い眞最中ですし、立秋は今年など猛暑日でした。そこで、日本気象協会がこれをもっと実態に合うようにしようと提案したのですが、多くの方から反発が出て結局これまで通りとなったそうです。汗をかきながらも「暦の上では秋になりました」と書くことが、一つの文化として定着しているのだからというのがその理由です。それでも、気象協会は簡単には引っこみません。俳人の長谷川櫂さんや日本語学の山口仲美さんなどに小さな解説をつけて下さいとお願いしたのです。立秋には「秋の生まれるところ」という解説がついています。暑さの中にもどこか秋が感じられる、どこかで秋が生まれているという感覚です。「秋来ぬと目にはさやかに見えねども風の音にぞおどろかれぬる」という歌がよく知られているのは、多くの人の実感だからでしょう。春にも“どこかで春が生まれてる”という歌がありますね。ところで、冬はどうなのでしょう。長谷川さん、山口さんたちが11月の季節の言葉として選ばれたのは「木枯らし1号」「七五三」「時雨」です。同じ風でも木枯らしとなると、秋の風のようにふと気づいたらではなくはっきりした感じがします。冬の方がきりっとしていると言えばそんな気もしてきます。
今日もフィリピンのレイテ島を90m/秒の台風が襲い大被害という報道があり、気象が荒々しくなってきたような気がしますので、のんびり季節を楽しむのも難しくなるかもしれません。でも四季の移り変わりを感じながら行動するのは日本文化の基本です。それは生命誌の「自然の一部である人間として生きる」という考えと重なるものであり、大事にしたいと思います。