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中村桂子のちょっと一言

館長の中村桂子が、その時思うことを書き込むページです。月二回のペースで、1998年5月から更新を続けています。

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【「自由」と「静か」】

2012年6月15日

中村桂子

先日金沢を訪れ、帰りの飛行機の時間までの30分ほどの余裕をどう過ごそうか考えました。30分では21世紀美術館は無理ですし、兼六園のカキツバタは今年は少し遅れていますなどという話の中で、昨年の10月18日に開館した「鈴木大拙館」はどうでしょうということになりました。ちょうど空港への途中でもあり、寄ってみました。

延床面積600m2ほどの小じんまりした館は展示空間、学習空間、思索空間から成ります。展示、学習の空間には大拙の著書や書などがあり、コンピュータ検索をしながら勉強できるようになっています。特徴的なのは思索空間、「水鏡の庭」と呼ばれる四角い池の上にある小さな空間に畳敷のベンチがあり(資料を見ると、床が動いて全部畳敷になり座禅が組めるようになっているようです)、水面を眺めながらゆっくり考えましょうというしつらえです。30分でバタバタという人はまったくダメですけれど。

設計の谷口吉生さんも金沢で育たれたとか、大拙の思想の基盤である「自由」と「静か」をテーマにしたとありました。大拙のお誕生日が1870年10月18日、それに合わせての開館だとも書いてありました。

展示は少なく、すべて自分で考えるようにということなので、そこにあったいくつかの言葉を、また例によって生命誌にひきつけながら考えました。

『生はすべての依拠であり生を離れては何物も存在し得ない。如何なる哲学を以てしても、いかに偉大で力強い観念を以てしても、我々はあるがままの生を脱することはできぬ。星を仰ぐ人も、その足はやっぱり大地にいているのだ』
『最も有効な行動は、ひとたび決心した以上、振り返らずに進むことである』
『無智の人は、智力をいまだ目ざまさぬから素朴のままにある。賢い人は智力のかぎりを尽くしているから、もはや、それに頼らない。両者は睦まじい隣同士である。「生ま知り」の人にかぎって、頭を分別でいっぱいにする』

6月1日がBRHの誕生日。大拙とまではいかなくとも考えを深めるきっかけにしたいと思います。御意見いただけるとありがたいです。

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