館長の中村桂子が、その時思うことを書き込むページです。月二回のペースで、1998年5月から更新を続けています。
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【日本列島の豊かさを生かした暮らし - なぜ一極集中なのでしょう -】
2012年7月1日
原子力発電所を稼動するか止めるかという議論は、安全性への危惧とエネルギー供給との間の綱引きになっています。共に大事なことですが、電力不足により生活の質が落ちるという脅しと身のまわりの放射能はゼロであれという要求とのぶつかり合いだけでは本質は見えてきません。大事なのは、今の私たちの暮らし方が賢い選択なのだろうかと考えることです。答は人それぞれでしょうから、その議論から何かが見えてくるはずです。
最後は文明論になるでしょうが、そこまで行く前として、私は東京一極集中と金融経済がどうも肌に合いません。一極集中ってそもそも先進国らしくありませんでしょう。北海道から沖縄までそれぞれの自然を生かした豊かな生活があるのに、それを生かした国づくりをしなければもったいないと思うのです。
先日、リニアモーターカーの話を聞きました。これを日本の中で走らせるのがよいかどうかは別として、東京 - 大阪間につくることがあたりまえとされているのがふしぎです。過密なところに暮らす人たちを更に忙しくし、より多くの人をそこに集めるのが望ましい未来の姿なのでしょうか。たくさん人がいるところにつくれば経済的に安心と考えてのことだとしたら、なんとも貧しい発想です。鉄道をつくることで、そこに新しい生活、産業、文化を生み出すという意気込みが必要で、これからアジアとの関係を豊かにしていくとしたら、日本海側や九州こそ新しい交通網が求められると思うのです。リニアモーターカーは鉄道というより、筒の中を荷物を運ぶ感じらしいですけれど。
これは極端な例ですが、身近に違うなと思うことがたくさんあります。エネルギーにしても、自然再生エネルギーを活用しようとしたら分散型になりますし、生きものとしての暮らしやすさを考えたら答は一極集中じゃないですよね。