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中村桂子のちょっと一言

館長の中村桂子が、その時思うことを書き込むページです。月二回のペースで、1998年5月から更新を続けています。

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【飛ぶを巡るあれこれ】

2011.9.30 

中村桂子館長
 今日初めて赤トンボに出会いました。それもちょっと開けた窓から部屋の中に飛びこんできたのです。今年は「季刊生命誌」のテーマ「遊ぶ」に合わせて、カードに飛ぶ生きものをとり上げ、紙飛行機にしてとばすことをしています。その眼で見るとトンボの翅はなんともきれいでみごとだなあと改めて感心しました。おかげさまで、研究館のメンバーの生きものへの思いと製作者坂さんの執念とも言える工夫とで(いつもそのアイディアに驚かされます)、“飛び方ハンパじゃないね”と言っていただける作品が生まれています。皆さま飛ばして下さっていますでしょうか。感想をお寄せ下さい。
 空を飛んでみたいと言えば、岡田節人名誉館長と同じ発生生物学者の瑛夫人が「エルマーのぼうけん」のジオラマを作られました。いつか空を飛んでみたいと願っている男の子エルマー・エレベーターが動物島に閉じ込められている竜を助け、その背に乗って空を飛ぶというお話。小さい頃お読みになったと思います。動物島では、イノシシやネズミやカメの他大きな動物たちが次々現れます。パン粘土でできたライオンやサイやゴリラやワニはどれも雰囲気があり、細かなところまで神経が行き届いた傑作です。正直、こんな才能をお持ちとはとびっくりです。
 それを見ていると、エルマー・エレベーターだけでなくエルマー・バイオヒストリーに冒険をさせたくなりました。竜ではなく恐竜に乗ったらどうだろう。恐竜は鳥へと進化するんだし。そんなことを考えていると楽しいのです。生命誌のよいところは、生きものに出会うといつもそれが歴史物語の中で動き始めることです。DNAや細胞でできているとしても、やはりネズミはネズミ、ライオンはライオンですから。
 飛ぶで思い出したことがもう一つ、夏に聞いたツバメの話です。原子力発電所の事故で稲作ができなくなった南相馬市の農家の方が、飛んで来たツバメを見て田んぼに水を張ったというのです。ツバメの巣には泥が必要と思ったからだそうです。お米を作れない辛さは想像を越えるものだろうと思いますけれど、田んぼはツバメのものでもあると受け止めていらっしゃるのってすてきですよね。水を張ったらカエルも鳴きだしたとのこと。とても大事なことを教えられました。

 【中村桂子】


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