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中村桂子のちょっと一言

館長の中村桂子が、その時思うことを書き込むページです。月二回のペースで、1998年5月から更新を続けています。

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【「はやぶさ」と「なでしこ」】

2011.9.15 

中村桂子館長
 映画「はやぶさ」を観ました。堤幸彦監督、竹内結子主演です。彼女の演じる研究生は、唯一映画のために作られたキャラクターと思われ、プロジェクトの中では縁の下役ですが、映画では主役。男性陣の中心は佐野史郎(川口マネージャー)、西田敏行(的川広報室長)でそっくりを心がけたそうです。確かにと思いました。これから続々映画化されるとか。このプロジェクトは、表現者に取り組んでみたいと思わせる何かを持っているのでしょう。科学と社会がどうしたこうしたと言わなくとも、こういう仕事をすれば自ずと関心は生まれるんだということを示した点でも興味深い例です。それにしても「はやぶさ」からの通信が途絶えたのは、プロジェクトとしては挫折なわけですが、もし順調に進んでいたらドラマとしての魅力は格段に減っていたでしょう。何が幸いするかわからないものです。
 竹内結子研究生は、いつも眼鏡越しの上眼づかいです。事に熱中するあまりドタバタしています。女性科学者のステレオタイプなのでしょう。川口淳一郎プロジェクトマネージャーから、「この映画の描き方はとても日本的で、これが世界に通用するかどうか興味を持っている」とのコメントがあり、そうだなと思いました。映画として楽しみましたが、実録の方が胸を打ったというのが正直な感想です。やはり科学の表現は難しいということかもしれません。
 ところで、「はやぶさ」と並んでの最近の話題は「なでしこ」。今、ロンドンオリンピック出場決定というニュースが流れています。澤選手のホッとしましたの一言よくわかります。両者の共通点は長い時間をかけた地道な努力が実ってすばらしい成果をあげたことであり、共に爽やかです。
 この二つを「一番でなければダメ」という例としてとり上げ、例のスーパーコンピューター騒ぎと結びつける話がありますが、それはまったく違います。スーパーコンピューターは量的な一番を競っただけで、しかも成果の話ではありません。爽やかさとはまったく無縁です。「はやぶさ」も「なでしこ」も本当に好きなこと、大事と思うことを懸命にやった結果、「初のサンプル・リターン」や「ワールドカップでの優勝」という誰もが祝福したい一番を手にしたのであって、金銭や権威で動いたのではないのが気持よいのです。本当に価値があります。こういう一番がこれからいろいろなところで出て来るといいですね。「はやぶさ」も「なでしこ」も浮わついたところを感じさせない強さで皆を引っ張っていってくれそうで楽しみです。

 【中村桂子】


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