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中村桂子のちょっと一言

館長の中村桂子が、その時思うことを書き込むページです。月二回のペースで、1998年5月から更新を続けています。

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【仕分け人という思いもよらないものになって】

2009.12.1 

中村桂子館長
 今回は、 “仕分け人” について書かざるを得ませんね。「事業仕分け」という言葉がこれほど社会を騒がせるとは思わず、 “日本の学問をよくするために、若い人が未来を感じられるようにするために” という思いだけで参加したのですが、研究者、官庁、政治家、そしてお金が絡んでいるのですから事は簡単ではありません。
 仕分けとは何かというと、 “ある事業を行なう計画とその実施方法の中にムダはないか” を探し、それをなくすことです。たとえば、宇宙ステーションに物質を運ぶHTVが必要不可欠なことは誰もが認めるところですが、その発註に際してムダのないよう努力をしているかを見て、甘いところがあったら努力を求めるということで、事業そのものの意味や是非を云々するものではないわけです。本来、まず科学技術の進め方についての基本があって、その中で事業を決めていけば、改めてこんなことをする必要はないわけですし、個別の事業だけを見ていくと、大事なものを切る危険がないわけではありません。事実私の眼から見るとちょっとと思う結論もあります。でも、さまざまな立場の人が真剣に話し合ったのですから、まったく意味のないものではありません。じっくり考え直す必要という条件づきで考えていきたいと思っています。もう一つ、ムダという言葉は難しく、文化、教育、研究などはムダなしでは成り立ちませんから、社会がこれらをどう位置づけるかが大事になります。本来なら基本の基本から考えるのがよいにきまっています。けれどもこの国は、本質を問うても少しも動きません。これまでも本質を考えましょうと言ってきましたが、そんな声は無視でした。ですから個別を問うことをきっかけに、皆で考えるようになるといいなというのが今の気持です。ところが、実際はなかなかそうは行きそうもないというのが実感です。皆んな自分のことを考え、自分のところにお金が来ることを思う気持の方が強いようで、せっかくのきっかけだと思うのに、研究者全体でこの国の将来を考えましょうとはならず、お金を削減するのはけしからんと言う声だけなのです。誰も科学技術が不要だなどとは言ってはいません。しかし、ただ科学技術は大事だと大きな声で言えばよいわけではないでしょう。この際、本当に大事なことは何かを考えて社会に発信しなければ、決して研究者への高い評価は得られません。なぜ皆本質を考えようとしないのでしょう。ここで諦めたら意味がありません。他の分野もそうでしょうが、私の場合、「日本の科学技術政策が専門家の中でオープンに議論されるようになること」が目的ですので、そこにつながるような努力はしようと思っています。「決して、また声の大きい人が勝ち、政治決着がなされるなどということのないようにして下さい」。行政刷新会議にこれだけはお願いしています。よい方向が出るとよいのですが。是非皆さまの声を聞かせて下さい。お願いします。

【付録】
仕分け人を引き受ける時、このような考え方をしていますということを伝えるために刷新会議事務局に提出したペーパーをつけます。これも是非読んで下さい。
<行政刷新に不可欠と思うこと>
<最先端科学としての生命科学研究の進め方>


 【中村桂子】


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