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中村桂子のちょっと一言

館長の中村桂子が、その時思うことを書き込むページです。月二回のペースで、1998年5月から更新を続けています。

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【雪のひとひら】

2008.12.15 

中村桂子館長
 久しぶりに小劇場へ行きました。THEATRE MOMENTSという若い仲間たちの「雪のひとひら」。作者はポール・ギャリコ。ニューヨークで生まれ、スポーツライターという経歴をもつ作家です。映画「ポセイドン・アドベンチャー」をご存じならその原作者です。空から舞い降りた雪の一生を描いているだけと言えばそれだけなのですが、描写が美しく惹きこまれます。
 「雪のひとひらは、ある寒い冬の日、地上を何マイルも離れたはるかな空の高みで生まれました。」という文章で始まり「地上をさして、雪のひとひらがはるばると舞いおりてゆくこのくらい世界に、あかつきのひかりがさしそめ、それにつれて、空はまず鋼色の青みをおび、それから灰色に、つづいて真珠色にかわりました。雪のひとひらは、風のまにまにひらりはらりときりきり舞いつづけるわが身をながめ、われながらきれいだと思いました。」というような、穏やかな心にしみる文が続きます。
 実はこれは女性の一生を語る物語です。雪のひとひらは旅の途中で出会った雨のしずくと結婚し、四人の子どもに恵まれます。幸せも、辛いこともあった雪のひとひら。「太陽が彼女を頭上の雲の中心にひきずりこむ間際、雪のひとひらの耳にさいごにのこったものは、さながらあたりの天と空いちめんに玲瓏とひびきわたる、なつかしくもやさしいことばでした。− “ごくろうさまだった、小さな雪のひとひら。さあ、ようこそお帰り”」こうして一生は終わります。
 演出の佐川大輔は、「主人公はただの雪。世界中で人々を不安にさせるニュースが続いている中で、こんなお話を舞台にかけてるなんてどうなんだろうと思う一方で、こういう活動にこそ解決の糸口があるかもしれないと思う」と言っています。私もそう思います。Little Snowflake。舞台は、小道具としてスケッチブックだけを用いた洒落た演出で、とても楽しいものでした。生命誌の表現のことをチラチラと考えながら観ている間、いやなことは忘れて豊かな気持になりました。

<附記>
 昨年末「雪のひとひら」を書いた時、一緒に書かなければと思っていたのに忘れていたことがありました。歌人の紺野万里さんから「星状六花」という美しい歌集をいただいていたのです。「星状六花」。最もシンプルな雪の結晶。「生きものに引き寄せられたような気持に惹かれてタイトルにしました」とあります。福井在住の紺野さんは10年ほど前、生命誌を歌に詠みこんで下さいました。歌集の中のすてきな雪の歌を一つ。「祖父(おおちち)のとんびにゆらりゆらり雪 いまより長い一秒だった」

 【中村桂子】


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