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中村桂子のちょっと一言

館長の中村桂子が、その時思うことを書き込むページです。月二回のペースで、1998年5月から更新を続けています。

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【お役目ご苦労様でした】

2008.6.16 

中村桂子館長
 日傘が必要な季節になりました。以前は、傘は使いませんでしたが、最近は紫外線の害が声高に言われ、とくに高齢者は気をつけなさいと脅されます。日傘といえば真夏のカンカン照りの日に白っぽく明るいものを広げるというイメージでしたが、それも変わってきましたね。紫外線は5月頃が強いので、その頃からさしましょうとか、熱を吸収する黒っぽいものが適しているとか。なるほどと納得し、4年前に京都駅の伊勢丹で濃紺の晴雨兼用傘を買いました。東京・大阪を往復しておりますと、東京ではお日様が出ていたのに大阪へ来てみたら雨だったとか、その逆だとか・・・気まぐれなお天気に対応しなければなりませんので、晴れの時も雨の時もそれなりに格好のつくものでなければなりません。ということは、あまり飾りのない平凡なものになるということで、ちょっとつまりませんが。
 昨秋、ブラシでお洗濯をして収納しておいたのですが、出してみると、ちょっと色がさめているのが気になります。そろそろ買い換えの時かなあと思いましたが、私の世代の特徴でしょうか・・・使える状態にあるものを捨てることができません。そのまま使い始めました。すると、5日目くらいだったかしら。折り畳みのところが一カ所壊れたのです。おっ神様、ちゃんと買い換えなさいと言って下さってるという感じです。ただし我が家には、たいていのものはお直しいたしますというかなり自信たっぷりの“エンジニア”がいるのです。傘などお手のもの、雨傘はだいぶ直してもらっていますので、すぐにダメとはなりません。一度提出し、検討してもらわなければ。ところが、日傘は折り畳むところが金具でなくプラスチックなんですね。それが折れてしまっているので、これはダメ。エンジニアも諦め、晴れて買い換えができることになりました。この週末に見て来ようと思っています。
 ものを作ったり、直したり。私の方は布系その他柔らかいものです。木綿なら、家人が友人と一緒に乗っているヨットの油汚れを落とす“ウェス”で終わるまでを見届けて、やっと安心します。最近は環境問題という面から、頭で考えたり、規則を作ったりして、物を大事にする必要性が説かれていますが、そんなことではなく、物とのおつき合いです。折角私のところへ来てくれたもの、一緒に過ごしたものには愛着がわき、充分お役目を果たしましたと満足して消えていって欲しいのです。こちらから“お役目ご苦労様。ありがとう”と言えれば納得。
 “Mottainai”と横文字で書かれたこの言葉が世界の共通語になっていくのはよいことですが、これは単に無駄にしてはいけないというだけでなく、物に対する気持を含んでいるのが特徴です。アニミズムとまでは申しませんが。この気持を皆で共有できるとよいなと思います。


 【中村桂子】


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