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中村桂子のちょっと一言

館長の中村桂子が、その時思うことを書き込むページです。月二回のペースで、1998年5月から更新を続けています。

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【人間を大切に】

2008.6.3 

中村桂子館長
 先回、できることなら水色のペンキでどこか塗らせてほしいと書いたのは、平和を願ってのことですが、実はペンキ塗りって楽しくて好きなのです。庭に置いてある椅子とテーブル。子どもたちが小さかった頃、バーベキューの時のために買ったもので、20年以上経っていますが、毎年夏休みに塗り直し続けたおかげで今も現役です。最初は白だったのですが、だんだん白はまぶしくなり、ダークグリーンに変えました。緑の中に沈み込んで落ち着くようにと。年齢と共にそういうところも変わりますね。
 今日の本題です。また「柚木の会」の話をしたいと思います。昨年の5月15日の号にこの会のことは紹介しました。30年以上前、八王子市柚木にある大学セミナーハウスで渡辺格先生のセミナーに参加したメンバーの会です。私はその時助手として参加、ですから20歳以上離れた仲間なのですが、今やみんな中堅、今では私が教えられることが多く、仲間に入れてもらうのを楽しんでいます。今年は「医療の問題」を考えようということになり、またまた長時間の議論になりました。
 問題提起をしてくれたのは、つくば市の病院に勤務している内科医の菊池さん。最近よく聞く医療崩壊の現状を現場から語ってくれました。医療については、患者の側から、あれこれ不満が述べられ、医師は恵まれた特権階級で、権威の塊とされてきましたが、今問題になっている医療崩壊は医師の悲鳴です。産婦人科、小児科、救急医療など、病院の閉鎖、撤退が相次いでいるのは、やってられなくなったから・・・。もちろんこうなったら患者は大困りになるのはもちろんです。こうなった理由を突きつめると、アメリカの対日年次改革要望書に沿った構造改革があると菊池さんは指摘します。とにかく経済効率を求める改革で医療とは合いません。アメリカの医療については、マイケル・ムーア監督の「シッコ」という映画がその実態を見せてくれます。事故で指を3本切断した男性に、保険会社は一本しかなおせないと言い、どの指を選ぶかを決める・・・。とんでもない日常をこの映画は次々見せてくれます。DVDもあります。是非ご覧下さい。人間よりも経済が大事だと考える人たちが社会を動かすことになってしまったのはなぜなんだろう。おかしいと思う人が声をあげていかないと。暮らしやすい社会にはならないとつくづく思いました。
 もう一つ、菊池さんが、医療経済学という立場からの分析を紹介してくれました。医療費高騰の主犯は「医療技術の進歩」という結果を示しているのです。これも気になります。生物学は今や先端医療につながっており、科研費でも役立つことが求められます。もちろん役に立つことはよいことなのですが、“本当に役に立つ”でなく役に立つと称するになっている場合が少なくありません。“役に立つ”ということはとても難しいことだと思うのです。まず、生きものについては基礎研究がまだ不足していますから、生物学の研究と確立した医療との間にはかなりの距離があるので、安易に役に立つというのは危険です。しかも、先端医療技術と呼ばれるものが日常医療として望ましいものかどうかという問題もあります。しかもその結果が医療費の高騰という答だとしたら・・・。考えるべきことだと思います。
 医療はやはり、経済・技術の側から押していくのではなく人間が生き生き暮らすにはという側から考えていくものだという当たり前のことを再確認した会でした。後期高齢者の問題もありますが、医療全体で考えることがたくさんあります。


ありです。
P.S 今年もまた台所の調理台でのアリさんの活動が始まりました。昨日は、夕食のデザート、メロンシャーベットが器の中にほんの少し残ったのを、台の上に落としてみたら、皆で集まっての大パーティーが始まりました。もう時計は零時をさしているのに、一向に巣へ戻る様子もありません。夜半の外出はいけないぞ、早く家に帰りなさいとたしなめながら、面白いので眺めていました。パン屑などあっても見向きもしません。肉や魚のかけらはあっという間に食べたり持って行ったり。肉の味のしみたキャベツは食べる。少しづつ食性がわかってきました。


 【中村桂子】


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