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中村桂子のちょっと一言

館長の中村桂子が、その時思うことを書き込むページです。月二回のペースで、1998年5月から更新を続けています。

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【小人と天使】

2008.7.1 

中村桂子館長
 先日、鶴見俊輔さんが「自分の中に別の人、小人の集団がいて、自分に知らせずに考えてくれるという信仰がある」と話して下さいました。バートランド・ラッセルの自伝にそういう例が書いてあるとのことです。ラッセルは、たとえば講演依頼のあった時、話そうと思うことをその場で考え、後は忘れてしまうのだそうです。そして講演前にそれを思い出すともう話すべきことができている。自分の中にいる小人がやってくれているというのです。羨ましいですね。私にもそんな小人がいてくれるといいなあと思いますがなかなか。でも、私なりの小人はいます。それに天使。神様のように偉くて遠い存在ではなく、ちょっと手助けして私だけではできないことをできるようにしてくれる存在です。どこかにそういう存在があると思うと気持が落ち着き、元気が出ます。神様のようにただお願いするのではなく、責任は自分。でもちょっと助けてくれるのが小人さん、そして私もドジなのよねと慰めてくれるのが天使です。
 小人さんは、「床下の小人たち」や「白雪姫の七人の小人」など本の中から出てきた存在ですが、天使の始まりは森永のミルクキャラメルでした。小さかった頃、あのキャラメルを一つ口に入れて絵本を眺めていた時の幸せ感は、今も心に残っています。その後、「誰もいないと思っていてもどこかでどこかでエンゼルが・・・」というコマーシャルソングが流行し、今も時々この歌を口ずさみます。極めつけは、クレーの天使たち。以前は“鈴をつけた天使”が大好きでしたが、最近は“忘れっぽい天使”に救われています。とても身近な仲間で、助けてくれるというより喜びを分かち合ったり慰め合ったりする仲と言った方がよいかもしれません。
 人間でも、あまり立派な人より、ちょっと抜けたところがあったり、ドジをする人の方がつき合いやすいですよね。神様より小人や天使の方がつき合いやすい・・・と言ったら神様に叱られるでしょうが、今はこの線で行こうと思います。

忘れっぽい天使 鈴をつけた天使
出典:日本パウル・クレー協会 ※http://www.paul-klee-japan.com/



 【中村桂子】


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