館長の中村桂子が、その時思うことを書き込むページです。月二回のペースで、1998年5月から更新を続けています。
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【「科学と音楽の夕べ」を終えて】
2008.2.15
当日、野依良治理化学研究所理事長(2001年のノーベル賞化学賞の受賞者)が、「科学と芸術」について話され、その中で「科学も芸術と同じように表現が大切であり、そのためには物語性を持たなければならない。これまで科学の中でそういうことは言われなかったので、科学者は表現が上手とは言えないが、これからはそれが必要だ」とおっしゃいました。研究館は表現を本質的なことと考えて活動してきたわけで、先取りができたかなと思いましたし、事実、野依先生もお話の中で実績を認めて下さいました。 ところで、この会にいらしていただいたもう一人の先生、演出家遠藤啄郎先生は厳しい。実は、これまで「『ピーターと狼』− 生命誌版」は4回ほど公演し、自分なりの工夫はしてきましたが、どこかにしろうとなんだからと思う気持がありました。でも昨年、遠藤先生と御一緒に宮沢賢治を学び(研究館で上演していただきました)、話す訓練を間近で見て、いくらしろうとでも訓練をしなければいけないと思い、今回は先生に2回指導していただいたのです。そんな程度で身につくものではないことはわかっていても、ちょっとわかったところがあるかなと思うところもあっての公演でした。 終った後、先生からのお電話で、語り方の細かいところではなく「科学と音楽(芸術)」というテーマを真剣に考えた時、いくつか問題点が見つかったとおっしゃいました。その中に現場での音や映像の扱いの問題がありました。確かにリハーサルの時、私は全体に責任をもつという気持はありませんでした。新国立劇場の専門家がやって下さるのだからとそこは考えなかったのです。もちろん専門家にお任せすることは大事なのですが、表現という以上、音楽の語りの部分だけでなく全体を見る気持がなければいけないのは当然です。「部分と全体」は抽象的に考えると難しいテーマですが、こういうところできちんと「表現は全体なのだ」ということを身につけていくものなのだとつくづく思いました。遠藤先生は絵画が御専門なので、映像についてももっと工夫しなさいと指摘されました。おっしゃられたことはすべて正論、直さなければいけないと思っています。厳しい先生がいて下さることはありがたいことです。 公演としては多くの方が楽しんで下さり、メールにそう書き込んで下さった方も少なくなかったので、ホッとしているのですが、それはそれ。厳しい眼がなければ何もできません。「ピーターと狼」についても、表現についても、宿題ができました。 【中村桂子】 ※「ちょっと一言」へのご希望や意見等は、こちらまでお寄せ下さい。 |