館長の中村桂子が、その時思うことを書き込むページです。月二回のペースで、1998年5月から更新を続けています。
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【10代の田園自然再生活動!】
2008.3.3
農村環境整備センターの仕事での出会いです。センターが発足した時は、農道や農業用ダムの整備など、農業推進がその役目でしたが、今では、それだけでなく自然環境や地域の生活などにも目を向けています。「農業・農村は、食料生産を基本に多面的な機能を持ち、日本を本当の意味での美しい国にする力を持っている。農家の方と一緒にすべての人が、この力が十分発揮できるようにしよう」という考えに基づく活動の一つとして「田園自然再生コンクール」を始めました。今年で5回目。前東京農大学長の進士五十八教授に選考委員長をお願いしているのですが、先生も全国の活動を知るのが楽しいとおっしゃって、大変な作業を引き受けて下さっています。表彰式でいくつかのグループに発表をしてもらうのですが、今年は「10代の田園自然再生活動!」という時間を作りました。「新田プロジェクトE」という小・中学生、「千葉県立茂原樟陽高等学校農業土木部」というちょっと固い題で登録してきた高校生の2チームです。実践はもちろん、発表もみごとで会場の大人たちは、圧倒されっぱなしでした。今回は「新田プロジェクトE」の導入部分くらいで終りそうですが、この二つを連載で紹介していきたいと思います。 主人公は、兵庫県豊岡市立新田小学校の在校生と卒業生52名です。「プロジェクトE」の「E」は、ecology,environment,emergency,enjoyの「E」だそうです。なるほど。でも、ecology,environment,enjoyはよくあるけれど、なぜemergencyなのという疑問がわきます。実は、このプロジェクトが始まったきっかけが、2004年9月の台風23号なのです。豊岡には円山川という豊かな川が流れていますが、これが市民が暮らしている土地より高い所を流れているので、堤防を越えると家は皆床上浸水になるのです。新田小学校の児童の家もすべて浸水したそうで、とても悲しかったと話してくれました。でも、その時周囲の人々が助けてくれたことで「人のぬくもり」がわかったのがとても嬉しかったと言います。emergency,非常事態にどう対処できるかが大事と気づいたのです。 2年生がその時の気持を表現した歌を皆で歌ってくれました。その一部です。 たくさんのもの なくしたけれど たすけあう心 みつけました ありがとうの気持ちをむねに ずっとわすれない 思い出そうとすると なみだがこぼれてくるけど みんながいたから つよくなれたんだ ここから自分たちも誰かの役に立つことをやろうと思い、環境の勉強を始めます。気づいていらっしゃる方もあると思いますが、豊岡はコウノトリの里であり、すでに「コウノトリを育む農法」という田んぼの生きものたちが暮らせる農法が行なわれています。大人と一緒にシンポジウムを開くなどして勉強した子どもたちは、身近なところから始めようと考え、32アールの広さの田んぼを借りて「育む農法」を始めるのです。 新田小学校の子どもたちのすごいところは、それにはどんな意味があるのか、それは自分たちにできることなのかという事前調査を着実にやるところです。論理的で冷静です。とても科学的と言ってもよいでしょう。「子どもの科学離れ」を防ぐためにと言って、ショーのように実験を見せることで「科学」に興味を持たせようとする動きがあります。実験ショーが悪いとは言いません。でも、新田小学校の子どもたちと接していると、自分たちで考えることの大切さを教えられます。私がバカの一つ覚えのように「自然から学ぶ、しかもそれには農業が最もよい」と言っているのは、こういう例をみているからなのです。ちょっと長くなりましたので、彼らの活動は次回に。 【中村桂子】 ※「ちょっと一言」へのご希望や意見等は、こちらまでお寄せ下さい。 |