館長の中村桂子が、その時思うことを書き込むページです。月二回のペースで、1998年5月から更新を続けています。
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【闇の魅力を感じた日】
2007.10.1
7時開演。すでに5時半には閉園になっている神宮の門を一つだけ、6時半に開いて下さって入園しました。実はこの時刻が大切なのです。駅から神宮へ向って歩いているうちにあたりがどんどん暗くなって行きました。とはいえ、街の中は車が走り、街灯が灯り、神宮の近くとはいえ明るい。ここから数キロ離れた渋谷や新宿は昼間と変らない明るさでしょう。ところが、6時半過ぎに門を入り、鳥居をくぐると足元が見えないほどの暗さ。砂利を踏みながら暫く歩くと、眼が慣れてきましたし、会場近くでは道の両側にろうそくが置かれ、それに導かれて歩くようになっていましたが。いわゆる明治の森、80年ほどかけてつくられた照葉樹林です。満月に近い月夜でしたのに、これほど暗いとは。参加者は100人限定でしたので、まわりにあまり人はいませんでしたし、東京の眞中での思いがけない体験でした。 本当は芝生の上で、蟲の声の中の演奏のはずだったのですが、自然は時に意地悪、お昼過ぎにパラパラと雨が降ったために、室内になってしまったのはちょっと残念でした。でも会場もろうそくの灯りだけでしたし、園内に入ってから続いていた、自然の中での落ち着いた気持はそのまゝ会場の中でも保たれていました。最近は街がどんどん明るくなり、しかも夜が遅くなっています。グローバル化に対応し、24時間都市にしなければ“世界に遅れる”(最近研究の世界でもよく聞かれる言葉です)と言われ、その方向に進んでいますが、本当によいことなのでしょうか。久しぶりに体感した闇の魅力に、これは大事なものだと思いました。 宮田さんの笙について語る余裕がなくなりました。それはいずれまた。 【中村桂子】 ※「ちょっと一言」へのご希望や意見等は、こちらまでお寄せ下さい。 |