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中村桂子のちょっと一言

館長の中村桂子が、その時思うことを書き込むページです。月二回のペースで、1998年5月から更新を続けています。

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【小さな生きものたちも戸惑ってるようで】

2006.4.17 

中村桂子館長
 春。陽ざしが春になったと感じ、頬にあたる空気の柔かさに心まで柔かくなるような気がする日があります。そこから春が始まるのが常ですが、今年は、そんな日の翌日に、これでもかというように冷たい北風が吹き荒れるというくり返しで、ああ春だなあと充分に思わないうちに桜の季節が来てしまいました。その桜も、3月31日に東京へ戻ったら、えっもうこんなにと思うほど、あらゆる所が満開の桜だらけ。慌てて、翌日家族でお花見をしました。と言っても成城の並木のお散歩ですが。そして4月3日、大阪へ来てみると、研究館の前の桜はまだ3分咲き。つぼみが開き始めてからの時間が長くこれでちゃんと咲くのだろうかと心配です。ここへ通い始めてから10年以上たちますが、東京と大阪でこんなに差が出たことは今までありませんでした(註:本日4月5日、雨が降った後に晴れたところでいっせいに咲きました。今年は止めておこうなどということはないのですね。自然は律儀です。註2:本日4月17日。実はこの間に海外出張をし帰ってきたら研究館の前の桜はまだきれいなのでびっくり。そろそろ散りたいのではないかと気になります。)
 私たち日本人は、季節の移り変りを大切にします。理屈っぽく言えば、農耕民族だからでしょう。自然の中に季節を感じとれた時、なんだか嬉しくなるものですから、つい少しづつ季節を先取りすることになります。春でいうと啓蟄、つまり冬ごもりしていた虫が外へ出て来る時、太陽暦では3月の初めがその一つでしょう。
 我が家でも春になると虫たちの活動が見られますが、その一つに、台所に現れるアリがいます。今年は、アリも春なのか冬なのか迷っていたのでしょう。いつも来るはずの頃になっても来ないなあと思っていましたら、先週の日曜日、ちょうど桜が開き始めたのと同じ時に現れました。虫も今年は止めておこうということにはならないのですね。毎年のおなじみなのに、どこから来るのかはわからない。調理台の上を数匹が歩きまわります。どこという当てもなさそうにウロウロしているのを見ると、君々何をしているのと、とても心配になります。目的をきめて、できるだけ早く行動することに慣れきっている身としては、なんだかわけのわからない動きをされると心配なのです。効率ばかり求める社会に疑問を呈しながらも、私自身その中にどっぷり入りこんでいるのだと思い知らされます。
 そんな中で昨日、珍しく20匹ほどの集団が現れました。スーパーマーケットでメロンパンを見つけた家人が、“なつかしいなあ”と食べたそうな顔をしたので求めてきた、その紙をはずした時に落ちた屑に集まっていたのです。現代人としては、ああはたらいているんだとこれで一安心。さてどこへ帰るのかしばらく見ていましたが、動いた距離は数センチ。夕飯を終えて見た時は一匹もいませんでした。
 窓辺のパンジーの鉢のまわりにはテントウムシ。虫たちもやっと安心というところでしょうか。今年のような寒暖の大きな変動に対応するのは大変だろうなあと思います。私たちは、コートをしまおうと思ったのにまた寒くなって面倒だなと思う程度で済みますが、小さな生きものたちは、どんな風に感じているのでしょうか?

 
 
 【中村桂子】


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