館長の中村桂子が、その時思うことを書き込むページです。月二回のペースで、1998年5月から更新を続けています。
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【わたくしはそのとほり書いたまでです】
2006.4.3
宮沢賢治もその一人で、共感したり、教えられたり、悩みがひしひしと伝わってきたり・・・さまざまなことを考えさせられます。とくに今回は、遠藤啄郎さんの演出、横浜ボートシアターのメンバーの舞台上での工夫によって、本で読んでいた宮沢賢治が、十倍も時には百倍も広がって見えるという体験をしました。 今では宮沢賢治を知らない人はないでしょうし、作品のいくつかを読んだという方も多いと思いますが、生前出版されたのは“注文の多い料理店”だけだったのですね。私も今回初めてそれを知りました。今回の公演は、そのたった一冊の本につけられた“序文”の語りかけから始まりました。
劇場が暗くなり、少し明るくなった舞台で静かに語られるこの言葉を聞いているうちにジーンときました。ここ数回にわたって、やや理屈っぽく書いてきた私の気持は、まさにこれだったんだと思えたからです。本当に大切なものはなにかということがはっきり見えてきます。 “ほんとうにもう、どうしてもこんなことがあるようでしかたないということを、わたくしはそのとおり書いたまでです” わたくしの中からどうしようもなく出るものを語るのであって、アカウンタビリティのためのコミュニケーションなどというものではないということをこんなに素直に表現できるなんてすごいなと思います。こうなりたいと思います。 “・・・わたくしにもまた、わけがわからないのです。けれども、わたくしは、これらのちいさなものがたりの幾きれかが、おしまい、あなたのすきとおったほんたうのたべものになることを、どんなにねがうかわかりません。” 本当にその通りと思います。すきとおった風、桃いろの朝の日光、かしはばやしの青い夕方。それらを思い、そこから生れる物語りをすきとおった食べものにする毎日を送りたいと思いませんか。 【中村桂子】 ※「ちょっと一言」へのご希望や意見等は、こちらまでお寄せ下さい。 |