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中村桂子のちょっと一言

館長の中村桂子が、その時思うことを書き込むページです。月二回のペースで、1998年5月から更新を続けています。

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【時間−歴史−物語−人生−・・・】

2006.3.15 

中村桂子館長
 先回は、写真家の港千尋さんとお話をしていて生命誌の「誌」にはこんな意味がこめてあるのでしょうと言って下さり、その表現があまりにもみごとで驚いたという紹介をしたところで終りました。私が思っていることを私よりも上手に表現してくれる方がいて下さるって本当にありがたいことです(自分の未熟さに気づかされることでもありますが)。

 「先ほどからお聞きしていて面白いなと思うのは、生命誌の「誌」です。これは物語と歴史との両義を含んでいるヒストリーですね。物語も歴史もどちらも時間を基軸にしているわけですが、その時間の概念を、もう一度科学の中に注入することで、概念上の変革だけでなく、科学者という人間の生き方も考えて行こうということでしょうか。つまり「人生」と呼ばれる時間も何らかの形で科学に反映すべきだということですね。そうすることで、「正しいか正しくないか」を目的とした従来の科学の価値とは違う「一市民として生きる」人生の価値を導き入れて、倫理や感情も含めた判断から、均質な科学に多様さを取り戻そうとされているのですね。」

 これ以上つけ加えることはありません。アカウンタビリティとしてのサイエンス・コミュニケーションとはまったく違うものが見えてきます。自分の人生と重ね合わせて語るということです。生命誌はこの精神で続けて行こうと思います。港さんとの対談はWebの中の「季刊生命誌 2005年夏号」に入っていただけるとありますので、是非お読み下さい。
 この港さんの言葉から思いつくのが宮沢賢治です。実は、「季刊生命誌 2004年秋号」で対談をしていただいた演出家の遠藤啄郎さんと、「賢治讃え」というパチンコ屋の開業記念のような題の公演を企画し、先日無事終えたところです。遠藤さんが、「企画 中村桂子+遠藤啄郎」とプログラムにも書いて下さったので、企画したなどと偉そうなことを書きましたが、実は何もしていません。横浜ボートシアターの方たちが新しい形の劇を創り出していく過程を楽しませていただいただけなのです。でも遠藤さんは親切に、「宮沢賢治ができたのは、生命誌に後押ししてもらったからなんですよ」とおっしゃって、私の次のような文をプログラムに載せて下さいました。

 「『自然は、生きものたちは、皆それぞれが物語っていて、私たちに語りかけてくれる』
 生きものを研究していると、そう思います。皆さん信じてくださらないかもしれませんが、研究のために、カエルやクモやハチからとりだした細胞も、いいえそこから抽出したDNAも、語りかけてくれるのです。その物語りを読みとって、相手を少しでも理解したい。仲良くなりたい。それが研究する気持ちです。」

 物語りであり、人生の反映であるというところが賢治と重なるということでしょう。港さんのおっしゃって下さったことと同じです。
 また予告篇になりますが、「賢治讃え」については次回にということで。

 
 
 【中村桂子】


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